第10話 シンの友達とロンギヌスの会議

博多でミツキが苦戦しているころ、ユキトもユキトで苦戦していた。




「ユキト、今日クラスで友達?が出来た。それで家に遊びに来たいらしい。呼んでもいい?」




小学校に通いだしてしばらくしたころシンがこんなことを言いだした。




「おう、いいぜ。じゃんじゃん呼べ」




「わかった。じゃんじゃん呼ぶ」




そう言ったシンは翌日本当にじゃんじゃん呼んだ。




「これって一クラス分じゃね?」




「仲間外れは可哀そうだからクラスのみんな全部呼んだ」




キラキラした目でシンが俺を見上げてくる。




「そ、そうか。まあじゃんじゃん呼べって言ったのは俺だもんな。オッケーオッケー!楽しく遊べよ!」




マジかよ。30人以上いるな。この人数で家で遊ぶのって逆に無理じゃね?体育館とか行けよ。




案の定、一部屋で収まるはずなく、灰猫荘全てを使って、何かよくわからない遊びを始めた。




「一号室の領土を奪って三号室のものにしろー!いけー!!」




「「「おおおおお!!!!」」」




なんか戦国時代みたいなこと始めてる。まあいいか。楽しくやればいい。小学生の遊びに高校生が出ていくのは野暮だ。だけど誰も入らないように一部屋だけ死守しておかないとな。




灰猫の副隊長が引きこもってる部屋だ。こんなところに間違って小学生が入ったら大変なことになる。




「ユキト!なんでこんなとこにいなきゃいけないのだ?」




「だってここはアイツの部屋だ。小学生に入らせるわけにはいかない」




「そ、そうだな。でももしかしたら今日は―




「遠慮しなくていい。アンリ、一緒に遊びたいなら行って来ていいぞ」




「でも我らは一心同体。離れるわけには―




「何言ってんだ、アンリ。一心同体ってことは離れたても一緒ってことだ」




「そ、そうなのか!?」




「一心同体ってのはそういうことだ、俺たちに距離なんてない。ずっと一緒だ」




「なるほど!それならもしや我は遊びに行ってきてもいい?」




キラキラした目でアンリが俺を見てくる。




「ああ、ここは俺に任せろ!」




「やったのだー!」




嬉しそうにアンリは駆けだして行った。




駆けだして行ったアンリは子供たちと楽しそうに遊んでいる。すると背後のドアから声が聞こえる。




「俺の部屋の前で騒ぐな。うるさい」




「てかお前さ、クソも働かないくせになんでそんなに偉そうなの?」




「偉いからだ」




「偉いわけねーだろ、クソニート」




「ニートの王と呼べ」




「いやそれでも褒め言葉じゃねーから」




「ニートこそがこの世でもっとも合理的な生き方だと何故気付かん。そして俺はそれを自らの手で成し遂げている」




「いや、その分俺たちが働いてんだけど」




「でも俺をクビにすることはできないだろ?それが俺の実力だ」




「マジでイラっとするな、お前」




「お前もな。そんなことよりお前ら少しは離れられるようになったんだな」




「、、、ああ、一緒にいて長くなったからな。アンリもこれぐらいは大丈夫になった」




「アンリだけじゃない。お前もだ。お前らは完全な共依存だ。絶対に離れようとしなかった。だから俺がいたわけだが」




「何が言いて―んだ?」




「これで俺の役目はなし、もしもの時のための保険だ。ニート生活に追い風が吹いてると思ってな」




「さいですか」




「おーい!ザノザ早く来いよ!もうとっくにレイドの準備できてんぞ!」




ザノザの更に奥の方から声が聞こえる。はぁ、この声はマモン。ザノザの契約している悪魔であり、アンリと同じ常時顕現型だ。




「それじゃあな、ユキト。俺はこれから仕事だ」




「仕事じゃなくてただのゲームだろ!」




ザノザから返事はなかった。ゲームを始めたんだろう。こうなってはこれ以上の会話は無理だ。むしろさっきまで会話できてたのがかなりレアケースなんだけども。




シン、アンリ、そして他の子どもたちが遊んでいる姿をぼーっと眺めているといつの間にか日が暮れだしていた。子供たちは遊び疲れ帰って行く。




「楽しかったか?」




「すっごく」




「楽しかったのだ!」




シンとアリスの言葉を聞いて今日はいい日になった思った。そう思っていたのに。携帯がけたたましく鳴り響いた。神殺しの槍(ロンギヌス)からだ。




「13番隊ユキト・ハイイロ隊長!緊急招集です!直ちに本部にお越しください!」








会議室に入るとみんな集まっていた。また俺が最後かよ。いや、ミツキがいない。今日はあいつがドベだな。ざまぁ。




だがミツキが来る前に会議は始まった。嫌な予感がした。そしてその予感は何のひねりもなくそのまま当たった。




「今日、博多で『大蛇』隊長のミツキ・ミダレが重傷を負った。現在も意識は戻っていない」




上人の言葉を聞いてミナトが手を上げる。




「博多って天使の大量発生が起こっているところでしたよね?相当な数だとは聞きましたが、その程度でミツキが重傷を負うとはとても思えないのですが」




同感だ。




「詳しい話はこやつから聞いてくれ」




上人の後ろから男が一人現れる。こいつは確かミツキのとこの副官か。




「今回の作戦の顛末についてお話いたします。博多上空には数えきれないほどの天使が飛び回っていました。しかし我が隊隊長ミツキ・ミダレがこれを単独で殲滅。我々隊員は街に被害が出ないように動き回っておりました。しかし突如空から博多の街一つ消し去るほどの光線が降り注ぎ、これを隊長は全力を使って止めました。そして空から人型の天使が降りてきました。とんでもない力を持っているように感じました。恐らく空からの光線を放ったものだと推測されます。


相対した時すでに隊長は満身創痍、、、くっ、、でなければ、、、失礼しました。勝てぬと判断した隊長は博多を守るために私に指示を出しました。私は術式を起動してこの人型を転移させました。以上です」




「下がってよいぞ」




「はっ!」




名前は忘れたけどミツキのとこの副官は悔しそうに唇を噛みしめながらも敬礼をして去っていった。




「人型はミツキと会話し、激昂したとも聞いた。窮鼠、お前はどう思う?」




「天使ってのは無限に湧いてくるように思えますが、確かにこのままでは世界を滅ぼすなんて何百年かかるんだと思っていました。つまりあれらはただの先兵。これからその人型が攻めてくると思います」




「数が問題じゃない?1体で蛇がやられるレベル。100とか出てきたら完全にゲームオーバーよ?」




騎馬の隊長キョウコがお手上げといった感じで言う。




「ユキトはどう思うんだい?」




ミナトのやつがムカつく笑顔で俺に振って来た。




「はぁ、大した根拠はないけどそんなに人数はいないと思う」




「その大したことない根拠とは?」




ミナトがニコニコしながら聞いてくる。




「まずこんだけ焦らしてやっと出てきたのが1体。大勢いるなら1体だけで来ないで一気に全体投入だろう。おそらくミツキを襲った奴は暴走した。1体の暴走を止められないとなればそこまで大人数ではない。それに奴らの目的は無だ。ってことはその人型天使たちもそれに含まれる」




「どういうことだい?」




「会話が出来たんだろう?そして怒った。自我があるってことだ。自分の終わりのために戦える奴をそんなに作れるとは思えない」




「神なら可能では?」




「出来なかったから今俺たちは抗ってるんだろ?」




「なるほど」




「俺の勘では10前後。こっちとあんまり変わらない感じだな」




「最後は勘か。でも君の勘は当たるからね」




ミナトはいつもに輪をかけてムカつく笑顔を見せた。

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