第9話 人型の天使

ミツキは大量の分身体を解き放ち天使たちに向かわせる。その数はさっきまで空を埋め尽くしていた天使の数の倍。




更に口からブレスを吐くがその光線は何本にも枝分かれして天使たちを襲う。




「圧巻だな。さすが隊長だ」




ミツキがポイ捨てした弁当の殻をきちんとゴミ箱に捨てて来たタダラが空を見上げながら恍惚表情を浮かべる。




基本ミツキが本気で戦うときの『大蛇』の仕事は一般人に被害が出ないようにすること。ナル以外のエクソシストたちの仕事は認識阻害をかけてミツキの姿を一般人に見られないようにすること。そんなものなのである。




リヴァイアサンの能力は『増殖』。自ら増殖していき、放つ攻撃さえも増殖する。圧倒的な物量で押しつぶすことを得意とする。つまり多対一に向いている。だからこそここに派遣されたのだ。




「ミっくん!増やし過ぎじゃないの?」




「はぁ!?まだまだ問題ねぇよ」




「気を付けてよ。、、、私が殺すことになるんだから」




いきなり雰囲気が変わり、刀の柄に触れながら冷たい声でナルが言う。




「黙って乗ってろ」




ナルはまさにミツキの天敵のようなものである。






聖十字協会(タナハ)の祓魔師たちは人間であることを極めた戦士たち。一部では仙人と呼ばれることもある。




それにより祓魔師は類まれない身体能力、戦闘技術を獲得している。




だが彼らにとって最も重要なのは剣だ。彼らが人の力を極めるのは剣と一体となれる器を作るため。悪魔憑きが悪魔に憑かれているというのであれば祓魔師は剣に憑かれているといってもいい。12使徒とは12本の聖剣をその身に宿した者たちのことを言う。




ナルが身に宿している剣は『天羽々斬』。恩恵は『大物食い』。相手が自分より大きければ大きいほどその力は増していく。




ナルは刀に触れながらもミツキの限界を見極めようと集中する。一歩間違えれば取り返しのつかないことになるからだ。限界が近づけば力尽くでもミツキを止めるつもりだ。ナルはミツキを殺したくない。




祓魔師は悪魔を滅したいと思っているが、悪魔に憑かれた人間も殺したいと思ってるわけじゃない。少なくともナルは。




聖十字協会タナハの目的とは、神との戦いを終えた後に全ての悪魔をこの世から消し去るということだ。だが悪魔憑きが悪魔と完全に一体化してしまった場合はその場で滅するしかない。だから悪魔憑きに無理をさせないお目付け役という役目もあるのだ。




「安心しろ。もうすぐ終わりだ」




「はぁ、よかったよ」




だからこそミツキの言葉にナルは心底安心したような声を出した。






―大人しく死になさい―






「はぁ!?」




「え?」






突如空から極大の光線が降り注ぐ。




この光線は博多の街を消し去るほどの威力だと瞬時に理解したミツキはタダラがいる方へナルを放り投げる。




「え!?ミっくん!ちょっと!」




「うるせぇ!お前は邪魔だ!受け止めるぞ、リヴァイアサン!」




『我の力をもってしても主を守り切れるかわかりません!ここは避けた方が!』




「俺に一度守ると決めたものを諦めろと?」




『そ、そういう訳では』




「だったら従え!命令だ!」




『御意に!』




無数に生み出していた分身体を全て取り込み、更にリヴァイアサンはこの一瞬にすべての力を放出する。それによって何倍もの大きさになったミツキは全力のブレスを放ち、空からの光線にぶつける。




しばらく膠着状態は続いたが空からの光線が競り勝ち、ミツキはこの攻撃を受けることとなる。




だがそもそもこの光線に勝てるとは思っていなかった。全力で迎撃して威力を限界まで削ぎ、残りは自分の身体で受けるつもりだった。そしてなんとか博多の街を守ろうとしたのだ。




身体を張って博多の街を守ったミツキはボロボロになりながらかろうじて立っていた。力を使い切ったリヴァイアサンは回復のためにいったん消え、ミツキは人間の姿だった。




「はぁはぁはぁ」




そんなミツキの前に空から天使が一人舞い降りる。その姿にミツキは目を一瞬奪われる。今まで見て来た化け物じみた天使ではなく、本で見たような見目麗しい翼の生えた人間。まさにその姿のままだったから。




「はぁ、どこまで抗うのですか人間。創造主が消えろと言っているのだから黙って従うのが筋でしょう。ましてや悪魔どもと組んでまで抗うとは。恥を知りなさい」




純白の服に身を包んだ金髪の男が呆れたようにミツキを見て言う。人の言葉を話したことにさらに驚くが、そんなそぶりは見せずにミツキは言葉を返す。




「父親だろうがボケて殺しかかってくるなら、首を刎ねてやるさ」




「貴様、もしかして今神を侮辱したのか?」




「そう聞こえなかったか?もしかして頭が悪いのか?」




「失敗作ごときがぁぁぁ!!!!」




男は激昂して、彼から凄まじいオーラが噴き出す。




「とんでもねぇな。全く。疲れてるってのに」




「死ね」




美しい天使は光で作られた剣を振りかぶる。




どう見ても死以外の結末はありえないかのような状況。だがミツキは不敵に笑ったままだ。




「タダラぁぁぁ!!!!」




ミツキが大声を上げる。




「ええ、お待たせして申し訳ありまん。準備は済んでおります。実行いたします」




タダラは蛇のような尻尾を生やした姿でミツキの真上の上空に立っていた。






―蛇は口の裂くるのを知らず―






タダラが術を発動させた瞬間、天使はその場から一瞬で消える。




これは任意の対象を遥か遠くへ瞬間移動させるものだ。最悪ミツキ一人の手で天使の大軍が手に負えなかったときのために、一旦できるだけ多くの天使を転移させようという作戦だったのだ。しかしこの術はその場の空間を完全に把握しなければいけないため、発動に時間がかかる。まさかこれをたった一人の天使に使うことになるとはタダラも思ってはいなかったが、まさに功を奏したといっていいだろう。




「大丈夫ですか!隊長!」




タダラが空から降りてくる。




「タダラよくやった。あいつがすぐに戻ってくることはないんだな」




「はい、私のポティスの力で飛ばされたものはそう簡単に戻ってこれません」




「そうか、なら、よかっ、、、た」




そのままミツキはその場に倒れる。




「隊長!」








報告書






博多防衛戦




六番隊『大蛇』によりこれを殲滅




しかし突如人型の天使が出現




博多を崩壊させかねない攻撃は隊長ミツキ・ミダレが防御




副隊長タダラ・メンリにより一時的に人型を博多から遠ざける




人型による博多への被害は無し






負傷者 隊長ミツキ・ミダレ 重傷

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