第4話 放課後の任務依頼

俺たちが通っているのは東京に8つある高校のひとつ、東京第3高校。この学校は天使たちが発生する地域に近いために10代の神殺しの槍(ロンギヌス)はほとんどここに通っている。




昔はもっと多くの学校があったようだが、度重なる災害、感染症により人口が激減しここまで学校が少なくなってしまったらしい。まあ昔の話なんてどうでもいいけど。もちろんこれは神と天使の仕業だ。




正直滅ぶなら滅んでもいいと俺は思ってる。1人で死ぬのは寂しいが、みんな一緒にさよならするならそこまで悲観するようなことでもないような気がする。


じゃあなぜ悪魔憑きとして神の意思に抗うのか。特にこれといった大きな理由はない。




俺の周りの人間たちが戦っているから。ただそれだけだ。皆で一緒に死ねるならいい。でも一人で死ぬのと顔見知りが一人で死んでいくのは何となく嫌なんだ。




そんなもんなんだ。俺が命を賭ける理由なんて。我ながらイカレてると思う。




そんなことを考えていると、というか考えているつもりだったがいつの間にか眠ってしまっていたらしい。アンリの声で起こされる。




「ユキト!昼休みなのだ!ご飯なのだ―!」




「そうだったな。とりあえず菓子パンでも買って屋上行くか!」




「チョコがたっぷり入ってるやつがいいのだ!」




悪魔は物を食べなくても何の問題もない。だがアンリは甘いものが大好きだ。まあ人間でいうところの嗜好品といったところだろう。




俺はチョココロネを5つ買って屋上に行く。昼休みは大体屋上で飯を食う。アンリに認識阻害の魔法がかけられてるといってもチョココロネが宙に浮いて消えだしたら事だから。




「ユキト!待ってたわよ!今日はスペイン料理をお弁当という解釈に落とし込んでみたの!」




俺が毎日ここに来ることはわかってるから、もちろんユウカも待っている。スズネはそっぽを向きながら無言でおにぎりを食べていた。俺に会いたくないならこなきゃいいのにとは毎回思うが、それよりもユウカの側にいたい気持ちの方が強いのだろう。




「女!ユキトは我にチョコのパンを食べさせるので忙しいのだ!どっかいけ!」




「食べさせてもらうなんて羨ましい!じゃなくて自分で食べなさいよ!このロリババア!」




「なにを~!」




「なによ~!」




お、スペイン料理って食べたことなかったけど案外イケるな。この2人も毎回このくだりやってるけど飽きないのだろうか。それとも案外楽しんでやってるのか?まあどうでもいいか。あ、この芋が入ってる卵焼き上手い。




「あ!ユキト!どう?今日のお弁当は?」




「ああ、スペインに行ってみたくなるほどの興味深い一品だった」




「本当!?うれしい!じゃ、じゃあ、し、新婚旅行はスペインもいいかもね」




「そうだね」




「きゃー(≧∇≦)」




ユウカは楽しそうにしてる。よかったね。




「ユキト、それおいしいのか?我も一口欲しいのだ」




「いいよ、ほれ」




「何なのだ、これ!甘くないのだ!甘くないものは嫌いなのだ!」




「アンリ、人間は甘いものだけじゃ生きていけないんだよ」




「不便な生き物だなぁ」




「甘いものを食べられないのが該当するかどうかは別として不便な生き物だというのには同意するよ」




昼休みを終えて午後からの授業に出る。出たと同時に寝てしまったようで下校時間にまたアンリに起こされる。




「ユキト起きるのだ!早く駅前でドーナツを買って帰るのだ!」




「あれ?みんなは?」




「もう帰ったのだ。猪の女は一緒に帰りたそうにしていたが任務があるからと渋々帰ったぞ」




「そっか、じゃあ俺たちも帰ろうか」




「おー!」




アンリにドーナツを買って、その後スーパーによろうなんて考えながら廊下を歩いていると、呼び止められることになる。




「猫、話がある」




「学校でその呼び方はやめてくださいよ、生徒会長」




声の主は十一番隊『狗神』のシンイチ・イチジョウ。3年生で生徒会長。そして―




「今日もずいぶん妹が世話になったみたいだな」




ユウカの兄貴でもある。




「お世話になってますよ」




「ちっ!」




常軌を逸したシスコンだ。




「それを言うために呼び止められたんですか?」




「違う。上人からお前に任務だ」




「なんでそれをあんたが?直接俺に言えばいいのに」




「お前の携帯繋がらないって言ってたぞ」




「あ、そういえば充電してなかったかも」




「そもそもこう言う連絡は使い魔を介して行うんだがな。お前にはアンリ・マンユが憑いてるから使い魔程度じゃ近づけん。携帯の充電はこまめにしておけ」




「すんませんした」




「ここじゃ何だ。生徒会室に来い」




生徒会室に行くとすでにスズネが不機嫌そうに座っていた。




「お前も呼ばれてたなら俺も一緒に連れてきてくれたらよかったのでは」




「なんで私がそんな面倒なことをしないといけないんですか?」




軽い気持ちで言ったのにすごい目で睨まれた。




「せっかくお嬢様と一緒に下校できると思ってたのに」




何かブツブツ言ってるしこれ以上刺激しない様にしよう。




「で、『灰猫』への任務は調査だ」




「調査?なんかぬるそうな任務っすね」




「そうも言ってられないぞ。ヒイロ様が神の気配を感じたらしい」




「天使じゃなくて?」




「ああ」




「でもあのバーさんボケてますよね?」




「ヒイロ様はご健在だ。今でも俺たちはヒイロ様の予言によって方針を決めてる」




「本当かな。会うたびに『飴ちゃん食べるかい?』しか言わないっすよ」




「それはボケ老人のロールプレイらしい。趣味なんだそうだ。そもそも自我を失った人間に悪魔は憑りついていられない」




「ウザい趣味っすね」




「とにかくヒイロ様が神の気配を感じたところへ調査に行ってくれとのことだ。得体が知れないからな。お前が適任だとよ」




「俺が求められているのは神との相打ちですもんね」




アンリ・マンユに憑かれた瞬間から俺は最高戦力であり最大の危険因子である。世界が保有する核でもあり、癌でもある。




神との最終決戦の切り札だ。そして神を倒して疲弊した俺たちを滅する。ここまでが神殺しの槍(ロンギヌス)と聖十字協会(タナハ)の、いや人類の望みだ。




「場所は渋谷だ」




「首のもげた犬の像ウケるから久しぶりに見たいと思ってたんすよ。ちょうどいいや」




「健闘を祈る」




「心にもないことを」




「お前は嫌いだがお前が死ぬと妹が泣く」




「死にませんよ。まだね。先輩も大変ですね。心にもないことを言い続けなきゃいけない」




「それが今のところ一番ユウカのためになるからな。だがユウカのためにならなくなったら全て壊すだけだ」




「さすが。その時は俺も誘ってくださいよ」




「ふん、断る」




『狗神』の隊長シンイチ・イチジョウ。俺と鼠の他に神殺しが行える可能性があると言われている悪魔憑きだ。

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