第25話 Piano Rugs By Scott Joplin JOSHUA RIFKIN
スコット ジョプリンという名前にあまり覚えがなくても、"The Entertainer"を聞けば、「ああ、聴いたことがある」と答える人は多いだろう。あの陽気な、独特のシンコペーションは一度聞いたら忘れることはできない。
僕が最初にこの曲を聴いたのは映画史に
その貢献度の高さの表れはスコット ジョプリン自身が演奏したピアノロール盤を除けば僕の所有している盤はいずれも1973年以降の録音で、一時「ラグタイム」というジャンルで新譜がたくさん発売されたもののうちの一つだという事からでも分かる。
ジョプリンの作曲したラグタイムがいくつあるのか、正確には分らないが(一説では40曲程度との事だが)だいたいの場合、初期の名曲であるMaple Leaf Ragや
The Entertainer, Elite Syncopationの3曲は 漏れなく入っていて、それぞれの曲の長さも短いので、聞き比べをしてみると面白い。リフキンの演奏はとても丁寧でクラッシック音楽寄りの演奏である。丁寧な演奏で、どの演奏も破綻はなくそれでいてラグタイム特有のリズムもきちんと感じさせてくれる。演奏者のリフキンは余り知られていないがクラッシック音楽の演奏家で、古典も演奏しているらしいが、いかにも、といった演奏である。レコード三枚組は大学生の頃、池袋の東武百貨店の確か10階あたりにあったレコード店で購入したもので、想い出深いものである。
Non Suchというレーベルもこの時初めて知った。残念ながら技術や媒体の変化によりレコード業界は日本の銀行業界と同じく集合離散を繰り返し、様々なレーベルの名が消えて行ったが幸いにしてNon suchはまだ残っているらしい。クラッシック音楽の境界音楽というニッチの部分で生き残るのも大変だろうけど、頑張って貰いたいものだ。
CDのピアニストであるディッなク ハイマンは1927年生れの作曲家・ジャズピアニスト。調べてみると、まだご存命でジャズピアニスト以外にも様々な肩書きを有する多才な音楽家らしい。僕が所有しているのは彼の録音した三枚組のLPから有名な曲をピックアップした物なのだろう、後述する作曲家自身のピアノロールによる演奏と曲も順番も結構、被っているのでおそらく多少意識した組み合わせではないだろうか。
かなり表情が豊かで即興性の高い演奏で、それがいかにもジャズピアニストらしい。ラグタイムはクラッシック音楽的な要素と伝統性・土着性の高い民族音楽の中間的な性格を持つので(そもそもジャズにしても、ブルース、ラグタイムにしても民族音楽がピアノという西洋由来の楽器を使った時点でどこかそうした中間性を帯びざるをえない)どちらに転ぶかは演奏家次第である。この演奏は決して下品ではないけれど、その意味では「ジャズ寄り」のリズムとダイナミックスに溢れていて、のりやすいし聞きやすい楽しい演奏だ。
作曲家自身の手になるピアノロール版は、ピアノロールといっても現代のDTM(Desk Top Music)ではなく、実際の紙巻きのものである。どの程度本来の音が再現されているのかは分らないが、聞いている限りではスコット・ジョプリンはかなり生真面目な演奏家だと思われる。演奏年代が分らないのだが、同時期に演奏されたものではないのは、やや演奏スタイルに差があるためで、特にMaple Leaf Ragは他の3曲に比べ自由度の高い演奏に聞こえる。
その他の3曲はかなり早い演奏であるが、ピアノロールの最大の問題点は(編集上のインチキが可能である事に加え)速度が自由にできること。従って、本当にこの速度で弾いていたのかは分らない。The Entertainerなど、作者自身が楽譜にNot Fastと指定しているのだけど、他の演奏家よりは30秒から1分ほど早く弾きあげているのは面白い。これは本当に演奏家の指示なのだろうか?加えてピアノロールの最大の欠点は「表情が平板で、ダイナミズムやら音の強弱は期待できない」ことにあり、様々な意味で「参考」にしかならないけど、やはり曲の選択とか、リズムとか、そうした点では歴史的価値の存在するものだと思う。
ラグタイム・・・一世を風靡したこの音楽も第一次大戦の終結で欧州に渡った頃が最盛期、次第に衰えていく。
今、改めて聞いてもその全ては楽しく、物悲しく、機知に溢れ、懐かしいものなのだけど、演奏を積み重ねて聞くタイプの音楽ではない。曲と曲の合間にちゃりん、と音を立てて乾杯し、少し話し込み、やがて思い出したように演奏に戻っていく。そうした音楽なのであろう。
スコットジョプリン自身の創作も次第に少なくなっていき、アフロアメリカオペラ(Treemonisha)の創作に取り憑かれたまま、やがて正気を失い、1916年、公式な死因としては「梅毒」で一生を終える。ラグタイムの権威、ルディ ブレッシュの言葉では「狂気にさいなまされた孤独な夜の中で」(Dick Hymanの演奏によるCDの解説を引用)死んでいった姿は、のちのパド パウエルなどと共通した、天才黒人音楽家の辿りつく最期のどこか共通した姿で、心痛むものである。
<レコード>
*PIANO RAGS BY SCOTT JOPLIN
Maple Leaf Rag/The Entertainer/The Ragtime Dance/Gladiolus Rag/Fig Leaf Rag/Scott Joplin's New Rag/Euphonic Sounds/Magnetic Rag
JOSHUA RIFKIN, PIANO
NONSUCH RECORDS H-71248
*PIANO RAGS BY SCOTT JOPLIN VOLUME II
Elite Syncopations/Eugenia/Leola/Rose Leaf Rag/Bethena-A Concert Waltz/Paragon Rag/Solace-A Mexican Serenade/Pine Apple Rag
JOSHUA RIFKIN, PIANO
NONSUCH RECORDS H-71264
*PIANO RAGS BY SCOTT JOPLIN VOLUME III
Original Rags(arranged by Charles N.Daniels)/Weeping Willow-A Ragtime Two-Step/The Cascades-A Rag/The Chrysanthemum-An Afro-American Intermezzo/Sugar Cane-A Ragtime Classic Two-Step/The Nonpareil-A Rag and Two-Step/Country Club-Ragtime Two-Step/Stoptime Rag
JOSHUA RIFKIN, PIANO
NONSUCH RECORDS H-71305
<CD>
*Scott Joplin PIANO WORKS
Maple Leaf Rag/Original Rags/Swipsy/Peacherine Rag/The Easy Winners/Sunflower Slow Drag/The Entertainer/Elite Syncopations/The Strenuous Life/The Breeze from Alabama/Palm Leaf Rag/Something Doing/Weeping Willow/The Chrysanthemum/The Cascade/The Sycamore
Dick Hyman, Pianist
RCA Victor GD87993
*SCOTT JOPLIN & THE KINGS OF RAGTIME
(CD1)
The Entertainer/Combination March/Original Rags/Swipsy/Peacherine Rag/ Sunflower Slow Drag/The Strenuous Life/Elite Syncopations/Something Doing/
Weeping Willow Rag/Cascades/The Favorite/The Sycamore/The Ragtime Dance/
Rose Leaf Rag/Gladiolus Rag/Non Pareil/Searchlight Rag/ Fig Leaf Rag/Maple Leaf Rag
(CD2)
Rusty Rags(Vess L.Ossman)/Buffalo Rag(Vess L.Ossman)/Saint Louis Rag(Arthur Prayor Band)/Dill Pickles Rag(Chris Chapman)/Black and White Rag(Victor Dance Orchestra)/Temptation Rag(Arthur Prayor Band)/Alexander's Ragtime Band(Victor Dance Orchestra)/
/Gladiolus Rag//Scott Joplin's New Rag/Euphonic Sounds/Magnetic Rag
Elite Syncopations/Eugenia/Leola//Bethena-A Concert Waltz/Paragon Rag/Solace-A Mexican Serenade/Pine Apple Rag
Original Rags(arranged by Charles N.Daniels)/Weeping Willow-A Ragtime Two-Step/The Cascades-A Rag/The Chrysanthemum-An Afro-American Intermezzo/Sugar Cane-A Ragtime Classic Two-Step/The Nonpareil-A Rag and Two-Step/Country Club-Ragtime Two-Step/Stoptime Rag
Maple Leaf Rag//The Easy Winners/The Entertainer//The Breeze from Alabama/Palm Leaf Rag/The Chrysanthemum/The /
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