第101話

「で、貴方は弱いから試合に出れないの?」


「その言い方、悪意を感じるんですけど……。僕の出番はまだ後なだけです……これでも、二番隊副長なんですけど……」



シルヴィとフレッドが仲良さげに話している中、試合が始まった。リディアは視線を試合へと向ける。すると、見覚えのある人物がいた。


「ねぇ、あれって……」


シルヴィもその人物に気付き、心底嫌そうにする。リディアはその姿に苦笑した。


リディアの元婚約者のラザールだ。そう言えば、忘れていたが彼も白騎士団員だった。


「⁉︎」


頭も性格も悪いが、どうやら目だけは良いらしい……と失礼な事を考える。遠目でも、リディアに気が付いた様子で格好を付けたポーズを決めながら視線を送ってきた。相変わらず、理解し難い。


するとそれを見てシルヴィが鼻で笑った。


「ダサっ」


「シルヴィさん、口が悪いですよ」


そして彼は予想していた通り見事に敗北し、全身ボロボロになっていた。そして何故かこちらに向かって来る。


「やあ、リディア。どうだった、私の勇姿は」


以前夜会であんな事があったにも関わらず、良く普通に話しかけてこれるなと、リディアは呆れる。


と言うか「私の勇姿」って……。


「勇姿……」


え、勇姿……勇姿って、何だっけ……こんな感じだったっけ。


ラザールを上から下まで見遣る。服はヨレヨレ髪はボサボサ……。試合中は兎に角逃げ回り、無様の一言に尽きる。


……勇姿……勇姿……。


頭の中で言葉の意味を思い出す。そして改めてラザールを見遣ると……あ、鼻血出てる……。


「あー……えっと」


リディアが言い淀んでいると、隣でシルヴィが噴き出していた。これでもかと言う程笑い、フレッドに宥められている。


「勇姿って、勇姿?勇姿~?ふふふ」


「シルヴィさん、ちょっと」


「だって、あれは勇姿じゃなくて醜態の間違いでしょう?可っ笑しい~」


子供のように笑いながら、はっきりと言い放つシルヴィの言葉に、思わずリディアも噴き出した。



「う、煩いっ‼︎うわあぁぁ~」


ラザールは顔を真っ赤にしてワナワナと震えながら、奇声を上げ走り去って行った。


情けなさ過ぎる……。


嵐が去った。一体何しに来たのか……正直もう関わらないで欲しい……。リディアは大きなため息を吐く。その時、会場中から歓声が上がった。令嬢等が色めき立つ。


「ぁ……」


ディオンだ。何時もとは違い、騎士団の正装をしている。そんな兄の姿を、リディアが見る機会は少ない。目が釘付けになり、思わず見惚れた。遠目なので細かな表情までは分からないのだけが残念でならない。

そして同時に、黄色い声に苛々も募り顔を顰める。


試合が始まり、あっという間に勝敗は決した。無論勝ったのはディオンだ。


「ディオン様ぁ‼︎」


「きゃっ~‼︎」


「素敵~」



更に令嬢等の黄色い声は増すばかり。苛々するし、複雑だった。でも、気持ちは分かる。


だって……格好いいもん。




「では、僕もそろそろ行ってきます」


その後暫くしてフレッドの順番が回ってきた。彼はサクッと行って、サックと帰って来た。そして項垂れていた。


「仕方ないわよ。瞬殺だったけど、頑張ったわ。うん、頑張った、頑張った」


適当に慰めるシルヴィを見て思う。フレッド相手だと、性格が違う。でも、悪い意味ではない。シルヴィは愉しそうで、きっと二人は相性が良いのだと思う。二人を見ていると思わず顔も綻ぶ。


フレッドの対戦相手はリュシアンだった。シルヴィの言う通り、正に一瞬だった。強さを、ヒシヒシと感じた。流石白騎士団長なのだと、実感せざるを得ない。ディオンと闘ったらどうなのだろうか……。そんな事が頭を過った。


リュシアンが去り際、こちらを見たのを感じたが、あの時の彼を思い出し反射的に身体がびくりとした。シルヴィも横にいる故、色々と複雑な気持ちになった。

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