第100話



剣術大会当日。


「今年は何と言うか、錚々たる顔ぶれですね……」


フレッドは息を呑み大会会場になっている闘技場を見渡す。此処は城下町の外れに位置しており、かなりの人間を収容出来る。


だが例年見物者は、余程の物好きか団長等目当ての令嬢達くらいで割と会場内はスカスカなのだが、今年は何故か随分と人が多いと感じた。


この大会の意味は、ただの催し事ではない。

年に一度の騎士団等による剣術大会なるものが執り行われる理由……名目上は、普段交流のない白騎士団と黒騎士団の交流の為だ。だが実際は互いの力量の探り合いだ。


白騎士団は国王、所謂王族の配下だ。だが黒騎士団は主人が別にある。黒騎士団の本来の役目は王族の監視だ。もしも、国王や王族等が人の道を踏み外した時、処罰出来る権利と義務を抱えている。


初代女王が、自らを戒める為に作ったとされており、自らが大罪を犯した際は首を落とす様に、そう話したとかいないとか。建国の時の話故、古過ぎて定かではないが。


だが近年は別段問題もなく、役目は白騎士団と大差なくなりつつあるのが実情だ。それでも主人が違えば、思想も変わる。白と黒が水面下で対立している理由はそこにある。白騎士団は実質政権を握る王妃の犬であり、黒騎士団は神を信仰する神殿の支配下にある。この二つが相容れる事は、決してないだろう。



フレッドは闘技場とうぎばを挟んで向かい側に座っている王妃を盗み見る。まさか王妃自ら足を運ぶとは一体どう言う風の吹き回しなのだろうか。そして言わずとも隣には王太子の姿もある。王太子が母至上主義で王妃にべったりなのは巷では有名な話しだ。


「……」


そして、そこから少し離れた場所には第二王子のマリウスまでいる。たかが剣術大会に、王族が揃いも揃って正に異様な光景だ。まあ流石に国王の姿まではないが。


「意外と人が多いのね~」


隣にいたシルヴィが物珍しげに周囲を見ていた。その姿が子供っぽく見え可愛いと感じ、思わず笑いが洩れた。するとそれに気付いたシルヴィに頭を軽く叩かれた……。


「ちょっ、酷いです……」


「笑うからよ」


そう言ってそっぽを向くシルヴィの隣には、リディアの姿がある。シルヴィとは同僚であり、かなり仲の良い友人らしいく、一緒にいる所をよく見かける。今回何故か、シルヴィとリディアを剣術大会に誘う様に打診(脅迫)され口裏を合わせる様に言われた。故に彼女は自分が誘ったと思っている……しょうもない理由で……。


普通に誘えば良いのに……と思ったが、言わない。言えばきっと凄い剣幕で怒られるに決まっている。理不尽だなぁと常々思う。


フレッドは、改めて横目でリディアを見遣る。

彼女も色々な意味で、錚々たる顔ぶれの一人と言える。何しろあの黒騎士団長の妹なのだ。それに加えて、最近まで噂の渦中の人物でもあった。


「ねぇ、それよりどう?」


シルヴィがスカートを広げて見せて来る。だが、一体何がどう?なのかフレッドには分からない。困惑した顔をすると今度は耳を引っ張られた。


「い、痛いですって!」


「だって、分からないだもの」


フレッドは訝しげな顔をしながらシルヴィを頭からつま先まで見遣るが、やはり分からない。


「あー……えっと」


「もう!本当に分からないの⁉︎今日はリディアちゃんとお揃いなのよ」


隣にいるリディアとシルヴィを見比べると、確かに頭からつま先まで服装がそっくりだった。長い髪も今日は二人とも纏め上げている様で帽子のツバに隠れている。流石に顔立ちは違うので知り合いならば見間違える事はないだろうが、もしそんな面識のない人間が見たら間違えるかも知れないくらいには似て見える。


「それにしても随分と、ツバの広い帽子ですね……」


邪魔そうだなぁとぼんやり思った。女性の思考は分からない。特にシルヴィの事は……。


「そうでしょう、素敵でしょう?日差しもあるし、一石二鳥よ。ふふ。気分転換よ。ね、リディアちゃん」


褒めた訳ではないが、気を良くしたシルヴィはそう言いながらリディアに抱きついて笑う。リディアの方も戸惑いながらも愉しそうにしていたので、まあいいかとフレッドも笑って見せた。




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