第137話 解決したとはいえねぇが、ひと段落したのは間違いねぇ


『あの娘……気に食わぬな』


 食の子神クォークル・トーンの食堂にて、人間界を視ていた白の神が思わず呟いた。


 その呟きを聞いていた黒の神は思わずと言った様子で、言葉を漏らす。


『お前が明確に人を嫌うとは珍しい』

『我とて好悪の感情はある。単にそれで忖度などせぬよう心がけているだけだ』


 それに律儀に答えたのは、白の神らしいと言えるだろう。


『ケインキィだったか――白が気に入らぬというのであれば、秩序を乱す類の者か?』

『どうであろうな。ただ気に食わぬ――そう直感しただけだ』

『ふむ』


 実際のところ、すでに家族という秩序を乱してはいるのだが、その程度は些細なことだ。

 それはそれであまり好ましいことではないが、別に珍しいものでもない。


 だからこそ、その程度であれば白が感情を露わにすることはなはずである。


 だとしたら――


『もしや、あの娘の性質は白の影響を受けているからなのではないか?』

『なに?』

『単なる思いつきにすぎんが、時々いるだろう?

 人間であれそれ以外の生物であれ、我々の影響を強く受けた者が』

『祝福とは別に、我らが司るモノへのコダワリが強かったり、我らの在り方を体現するような振る舞いをする者たちのコトか?』

『そうだ。そして、あの娘はおそらく白の体現者たいげんしゃの可能性が高い』

『あれが……だと?』


 ――あの娘ケインキィが、よもや自分の体現者であると言われるとは思わなかった白は、思い切り顔をしかめる。


『平和、保守、法則、道徳、秩序、生、正義、平和、名誉、守護、平原、光、朝、太陽……この辺りを白は司っているワケだが』

『その通りだ。だからこそ、なおさら家族の秩序を狂わしているあの女が我が体現者であるなどとは思えぬ』


 稀に生き物の中に生まれる神の体現者。ケインキィがよもやそれとは思わなかったし、ましてやそれが自分の体現者であるなど、白は認めたくなかった。


『人間界に生まれる体現者は、別にそのすべてを体現するワケではない。

 恐らくだが――あの娘は、秩序と名誉……それから光と平和の体現者ではないかと愚考する』

『まさしく愚考だ。どうしてそうなる?』

『名付けるならば、白の歪曲者わいきょくしゃ。体現者でありながら、それを体現する手段がひどく歪んでいる存在ではないかと、そう思った』

『歪曲者? 歪んでいる?』

『あの娘は、自分の敷く秩序が保たれるコトを望んでいる。

 あの娘は、自分の名誉だけが守られるコトを望んでいる。

 あの娘は、光は自分の為にだけあればよいと考えている。

 あの娘は、自分にとっての平和だけが保たれば良いと考えている』

『それは……』


 清廉潔白にして秩序と平和を守る、光の騎士。

 白の体現者たる存在は、だいたいにしてそういう存在になることが多い。


 だが、黒の想定が正しかった場合、あの娘は白の体現者でありながら、その要素の全てを自分の為にしか使わぬ存在となる。


『神の体現者として、その在り方を歪めた形で体現する者。故に歪曲者と名付けた』

『黒の予想が当たっているのだとしたら、なるほど――嫌悪を感じるワケだ』


 それは白でありながら、白の好まぬ存在であるということだ。

 だとすれば、ただ好まぬ行為をするだけの存在よりも、度し難い。


『白が司る者は、独りよがりになった途端、性質が反転するようなモノばかりなのも理由だろうがな』

『いちいち言わずとも理解している』


 黒の神の言葉に、白の神が憮然と言い返してから、息を吐くのだった。




     ○ ● ○ ● ○




 ようやく領地に帰って来たものの、ショークリアの中にはモヤモヤとしたものがあった。


 捕まえ損なった魔獣使いテイマー

 ハリーサの家で起きている異常事態。


 主な原因はこの二つなのだが、加えてドンからも有力な情報を得られなかった魔薬なんかの件もある。


(偶然にしちゃ、タイミングが重なりすぎてんのが気にはなるけどな……)


 そうは言っても、今のショークリアにそれらをまとめて調べ上げる手段はない。

 もちろん情報収集は欠かすつもりはないが、限度というものもあるのだ。


 悶々と悩んでいるショークリアの姿を見かねたのか、夕食の時に父フォガードが苦笑混じりに声を掛けてきたほどだ。


「ショコラ。気になるのは分かるが、気にしていてもどうにもならん。

 今出来るコトを順番に処理していくしかないさ」


 それは理解はできるのだが、それで納得できるかというと難しい。


(まぁハリーがリュフレさんところで世話になってるって話だし、会いやすいのは幸いか)


 これから来年の学園入学までの期間、会う機会も多いことだろう。


「まぁ実際、お父様の言うコトももっともなのよね」


 夕食を終え、自室に戻ったところで、ようやく代償状態が解消された口で、独りごちる。


 父の言葉に従うのであれば、来年に入学する中央学園への準備をすることこそが、今やるべきことだろう。


「学園……学園かぁ……」


 前世では中学後半から死ぬまでの間、ロクな学園生活を送れなかったことに思いを馳せる。


 この世界でなら、ショークリアとしてなら、ふつうに授業を受けれることだろう。


 勉強自体は嫌いではないのだ。


(ハリーの妹も入学してくる可能性が高いって話だし、少なくとも退屈はしなさそうだぜ)


 警戒すべきところは警戒しつつ、だけど片意地を張りすぎることなく、楽しい学園生活を送れるとベストなのだが。


「ま、なるようにしかならないか」


 そんな結論に至ったショークリアは窓を開ける。

 

 夏にしては冷たい夜風が部屋に入ってくる。

 その心地よい風を受けながら、空に浮かぶ綺麗な満月を見上げるのだった。



===


 というワケで、第三章はここまでとなります。

 第四章からは最近のファンタジー的には鬼門と言われるコトの多い学園編に入っていきますのでよろしくお願いします。

 とはいえ、ちょっと想定外の要素を色々と本章に盛り込んでしまったので、先に作っていたプロットと整合する為に、次話公開まで時間がかかるかもしれません。


 準備の為にちょっと間が開きそうですが、お待ちくださいませ。


 あと、本作の書籍版に関する新情報が出せてなくて申し訳ないですが、水面かだと色々進んでます。

 こちらももう少しお待ちいただければと思います。

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