第127話 感謝されすぎんのも困るよな


(どうしてこう……オレが小規模で何かしようとすっと、無駄にデカくなるんだ?)


 元々はトレイシアとハリーサだけを誘ってのお茶会代わりの食事会くらいのつもりだった。

 シアとハリーがいるのにガルドがいないのもな……ということで、ガルドレットぐらいは追加で呼ぼうかな――と、考えていた程度である。


 ところが――両親と兄も食べたいと言ってきた。

 そこまでなら、まぁ構わない。ある意味で想定済みだ。


 だけど、どこで聞きつけたのかリュフレ・トリム・ゴディヴァーム卿が、ショークリアが新作を作るなら同伴与りたいと言ってきたのだ。


(いやまぁ、リュフレさんだったら断る理由はねぇけどな)


 そんなワケでリュフレが追加される。

 だが、増員はまだまだ終わらない。


 兄であるガノンナッシュが友人を誘いたいと言ってきたのだ。

 ショークリアに偏見を持つような人ではないということで許可を出し、誰を呼ぶのか訊ねたところ……。


(いや、王子様って……。

 この間、噴水広場で一度挨拶はさせてもらってるけどよ……)


 これで、殿下兄妹が揃い踏むことが確定したわけである。


(どうしてこうなった……)


 とはいえ――こうなってしまえば、もうグダグダ考えていても仕方がない。

 幸い、色んな獲物を狩ってきたのだ。

 せっかくだし、思いついた色んなモノを試してもいいだろう。


 それに、母マスカフォネの所有している神具のクローゼットなどを用いれば、食材を新鮮なまま長期保存も可能だ。

 足りそうにないならもうひと狩りしてくるだけである。


(厨房で当日出すモンを試作して……。

 シュガールとジンの二人に、合いそうな酒や飲み物を考えて貰って……)


 そこまで考え――ふと唐突にもう一つ、先延ばしになっていることを解決するのも悪くないか……と考えた。

 今更一人二人増えたところで誤差レベルだ。


(ドンも呼ぶか。

 裏貴族ドン・スピルノーヌとしてはムリでも、商人ピカオ・タールとしてなら招待出来んだろ)


 大物貴族ばかりの席に呼んでしまう形になるが、ドンなら問題ないだろう。

 早めに来てもらって父と土地に関する商談をしてもらい、帰り際に声をかけて参加して貰う流れで悪くないはずだ。


(事前に帰りに誘うって話をした上で、手紙を出すべきか)


 しかし、ドンだけ呼ぶのも彼が浮いてしまってかわいそうだ。


(マフィアはムリでも、商人は増やせるか。

 親父やリュフレさんも、そろそろ本格的に動くって話だし、信用できそうな商人には、減塩料理を振る舞うってなぁ、悪くねぇだろ)


 そうして、信用できそうな商人数名を追加する。


 商人組は急な誘いになってしまうものの、相応の利はあるハズなので、許してもらいたいところだ。


(結構な人数になっちまったけど……庭なら問題ねぇか。

 外でバーベキューっぽい立食形式なら、スペースはいらねぇ)


 シュガールとジンに協力してもらい、調理光景を見せるライブクッキング形式で、どんどん料理を提供していく。


(あとは、この後遺症が当日までに直ってるかどうかだけどよ……)


 治らないと困るな――とまで考えて頭を振った。


(別に心配ねぇか。招待客は基本的に気にしねぇだろう連中ばっかりだ)


 思考を巡らせながら、メモに情報を書き込んでいく。

 必要なモノや人。

 やりたいこと。

 やっておくべきこと。


 そういうのを箇条書きにして記していき、ひと段落したところで、ショークリアは盛大に息を吐く。


(やっぱ、想定よりも規模も人数も大きくなりすぎてやがる……。多少、自分のせいでもあるけどよ。

 将来的には、オレ主催のお茶会をしなきゃなんねぇワケだし、まぁ予行演習みてぇなつもりで、がんばりますかね)


 本当に困ったら早めにマスカフォネやココアーナに相談する――と、メモに追記してショークリアは立ち上がった。


 忙しい、大変すぎる、どうしてこうなった――そんな愚痴をこぼしながらも、ショークリアは楽しそうに準備をしていくのだった。





 そうして、あっという間に当日になる。





 さっそくドン――もといピカオがやってきた。

 彼だけは商談もあるので早めに来てもらっただけなのだが。


「とんでもないパーティにおれを加えてくれちゃったなぁ、嬢ちゃん」

「でもよ、ピカオさんにだって結構な利があるだろ?

 土地の話がうまく行かなくても、商人としてのアンタが顔をつなぐには悪くねぇメンツだ」

「そこは否定しねぇけどよぉ……」


 困ったように嘆息したあと、ピカオの表情が悪党のそれから人の良さそうな商人のそれに変わった。


「ですがぁ、確かに良い機会ですからねぇ。

 楽しませて頂きますよぉ」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 ショークリアは手近な従者に声を掛ける。

 父を呼び、ピカオを応接間へと案内させるように指示すると、次の相手を待った。

 

 続いても商人たちがやってくる。

 最初こそショークリアの言葉遣いや仕草に驚かれたものの、事情を説明すると、むしろ感謝された。


「そのうち治ると言われましても、その後遺症は貴族として致命傷であるコトくらいは理解できます」

「我らが暮らす街の為、そのような後遺症を残してまで救って下さったコト、感謝いたします」

「や、やめてくれ……。オレは別に何か意図があってやったわけじゃねぇよ。他の何でも屋や傭兵と同じで、守りてぇから守った。それだけだ」

「ええ。ですから、他の何でも屋や傭兵たちに対してするのと同じように感謝しているのですよ」


 あまりに何度も感謝されるので困ったショークリアは、招待客が揃ったら始めるからくつろいでいてくれと、強引にウェルカムドリンクを渡して少しその場から離れるのだった。



 次にやってきたのは、トレイシアとキズィニー十三世の兄妹だ。


「わざわざ来てくれて悪いな。招待状にある通り、完治してなくてこんな態度だが許してくれ」


 出来るだけ丁寧に言ってこれである。

 ただ、二人の招待状にはしっかりとその旨を記載してあった。


 だからこそ、二人は気にするなと言って笑う。


「私が食べたいと言ったのだもの。むしろ嬉しくて早く来てしまったわ」

「無理を言って僕まで参加させて貰ったからな。むしろ、感謝するべきはこちらだ」


 二人の顔を知っている者はまだまだ少ない。

 それでも、キズィニー十三世は、復旧中の街の視察を毎日しているそうで、それなりに噂にはなっているようだ。


 だからだろう。

 ドリンク片手に談笑していた商人組が固まってしまっている。


 それに気づいた二人は、そちらへ向いて告げた。


「気にするな。そのままで構わない」

「はい。一緒にショコラの料理を楽しみましょうね」


 商人組はそんな二人に深々と頭を下げてから、緊張した様子で談笑に戻っていく。


 そして――


「保護者として来てしまった。許せ」

「アンタに許せと言われたら許す以外のコトはできねぇですって……」

「うむ。すまんな」


 微塵もすまなそうにない態度の、二人の保護者。

 ようするに――


(なんで来てんだよ、王サマよぉぉぉぉ~~……ッ!?)


 とはいえ、邪険にするわけにもいかないので、ショークリアは努めて冷静に相手をする。


「いえ、こっちこそこんな喋りで……」

「構わぬ。事前に二人から聞いている」


 謝罪しようとするショークリアを手で制し、その上で少し真面目な顔をした。


「これは王でもなく、二人の親としてでもなく――この街を愛する一人の男としての言葉だ」

「はぁ……」

「長期に渡る代償を必要とする魔術を使ってまで、この街を救ってくれたコト……感謝する」


 頭を下げる王に、ショークリアは慌てて手を振った。


「か、顔を上げてくれ……!

 いくらなんでもアンタに頭を下げられるってのは、さすがに、その……なんだ……」

「父の感謝を受け取ってくれ、ショークリア。

 私も同じ気持ちなんだ。この街に暮らす一人の男として、君に感謝をしている」

「アンタもかッ!?」


 王族二人から頭を下げられるなんて、どうしたらいいか分からない。


「私からも感謝を、ショコラ。

 どうしても、騎士たちの初動が遅かったから……。

 貴女たちが居なかったらと思うと、恐ろしいわ」


 トレイシアにまで頭を下げられてしまうと、ショークリアはどうしようもない。


「感謝してくれるのは嬉しいけどよ……。

 でも別に、オレ一人でどうこうしたワケじゃねぇんだぜ……?」

「それでもですよ。ショコラ。

 情報を集めた限りでは、貴女がいなければ早期決着は難しかったと、一緒に戦われた皆様が口を揃えて言っておりましたから」

「お、おう……そうか……」


 何というか、もう本当にどうして良いのか分からない。

 ショークリアはトレイシアから視線を逸らして、頬を掻く。


「陛下たちからの感謝――素直に受け取ってくれぬか。ショークリア嬢」


 そして、さらに見知らぬ年輩の男性が姿を見せた。


「な、なぜ……お主がここに……!?」

「仕事を抜け出した貴方を捜しに来たのですよ」

「父上……」

「お父様……」


 子供たちにジト目を向けられたじろぐ王様。

 それを見、ショークリアはこっそりと苦笑した。


(保護者として――とか言いながら、実はサボりかよ)


 ただ、それはそれで親近感が湧くのは確かだ。


「申し遅れましたショークリア嬢」


 王様の様子を見ていると、彼を迎えに来たという初老の男性がこちらに向き直って挨拶をしてくる。


「宰相をしておりますドリンコンド・アイーダ・ルスコーフと申します。以後見知りおきを」

「お、おう。丁寧にすまねぇ。

 代償でこんな態度としゃべり方で悪ぃが……ショークリア・テルマ・メイジャンだ」

「お気になさらず。その代償はむしろ名誉の代償。

 口さがない者たちは多いと思いますが、私は一切気にしておりません。むしろ感謝さえしておりますので」

「か、感謝……?」

「私もまた、街を愛する住民の一人ですからな」


 ほっほっほと笑って告げるドリンコンドに、ショークリアは思わず天を仰いでしまった。


(どいつもこいつも、大袈裟に感謝しすぎだろ……)


 ショークリアのその様子に、トレイシアたち王族三人と宰相は笑っている。


 だが――


(わかるぜ、お嬢様)

(陛下たちから直接の感謝を言われるとか、どうしていいか分からないよな)

(が、がんばるんだお嬢さん……!)


 ――遠巻きから見ていた商人組からは理解され応援されていたことに、ショークリアは気がつかないのだった。


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