第5話 電車

 駅に着くとガイアソフィア様は女子トイレに向かった。


「私、波動元に戻してくるね。あとついでに買った服の波動も上げてくる」


 そうか、周りの人からは人がいきなり消えるように見えるんだもんな。自分の身だしなみを確認しながら少し待っていると、ガイアソフィア様がやってきた。


「おまたせ!」


 今度の姿は神々しいローブではなく、先ほど買った白いワンピースだった。あまり変わってないような気もするが、確実にコスプレ感は無くなっていた。そして、相変わらずお美しかった。


「じゃあ、行くとしますか」

「そうね」


 僕が改札に入ろうとすると、先にガイアソフィア様が向かって行って、するっと通り抜けた。ガイアソフィア様の分は無賃乗車になるが、仕方ないか。


 二人で並んで駅のホームにて電車が来るのを待った。ガイアソフィア様と話すと僕が独り言を言う不審者に見えるので会話はなかった。


 空を見上げると朱色になっていて、もう日が暮れかけている。予定以上に時間がかかってしまった。お母さんに連絡を入れなければ。


「ガイアソフィア様、ちょっとお母さんに電話かけます」

「え、ええ」


 一応ガイアソフィア様にも断りを入れ、僕はスマホを取り出し、電話をかける。3回着信音が続いた所でお母さんが出た。


「もしもし」

「もしもし、幸多だよ」

「あ、幸多ね。どうしたの?」

「あのさ、帰るの4時くらいだって言ってたでしょ?多分7時くらいになりそうなんだ」

「あら、そうなの。何かあったの?」

「あ、いや、別になんともないよ」


 ドキッとした。電話で話してもガイアソフィア様のことは伝わらなそうだし、そもそもちゃんと説明した所で信じてもらえるとも思わなかったので、なんとかごまかすことに。


「そう?」

「そうそう」

「まぁ、じゃあ夕飯作って待ってるからね」

「うん。ありがとう」


 お母さんとの電話の最中、ガイアソフィア様がやけに興味津々にスマホを見ていた。


「これはなんだ?」

「スマホですが……」

「スマホ?聞いたことないな」

「知らないんですか?」

「あ、あぁ」


 ガイアソフィア様は心底不思議そうに僕のスマホを見ていた。


「今は何をしていたんだ?」

「お母さんと電話してたけど」

「本当か!すごいな。便利な世の中になったんだなぁ」


 どうやら、ガイアソフィア様はスマホを知らないようだ。だが、電話は知っているらしい。


「電話は知っているんですよね?前はいつ頃下界に降りられたんですか?」

「うーん。覚えていないな。でも、ここ10年くらいは降りたことなかったかも」


 ここで今、一ついいアイデアを思いついた。先ほどから周囲からヤバイやつみたいな感じで見られていたので、それを解決する秘策だ。


 僕はオフの状態のスマホを耳に当てた。


「また、電話をするのか?」

「いや、違います。こうすれば周りからは独り言を言っているようには見えなくなるんですよ!つまり、電話してる風にね!」

「そ、そうか。よく考えたね」


 これでガイアソフィア様と話していても、周りから変な目で見られないで済みそうだ。


 そうこうしているうちに僕らが乗る電車が来た。そして、また問題が発生した。


「おい、君。無視するな」


 電車では電話はマナー違反であることに気づき、とうとう、ガイアソフィア様との会話ができなくなってしまった。まぁ、電車から降りるまではお互い我慢しよう。


 そんなこんなで、僕とガイアソフィア様は無言のまま電車に揺られ運ばれることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る