第4話 法則
今、僕とガイアソフィア様は登山道の入り口から最も近くにある駅に来ている。周りからの目を気にしていたが、ガイアソフィア様の言うように、彼女の姿は僕にしか見えないのだろう。だが、だがしかし。
「やっぱり服変えてもらえませんか?」
僕は万が一でもガイアソフィア様が見られる可能性を避けたかった。
これから乗るのは電車だ。乗客も多いに違いない。ならば、その中に僕と同じくらい波動が高い人がいるかもしれない。その不安が僕の心臓に与える影響を鑑みた結果、ガイアソフィア様には普通の服を着てもらうことに決めたのだった。
「えー、やだよ。この服お気に入りなの」
「つべこべ言わずお願いしますよ」
「この服、今天界で流行ってるの!だからダメ」
「なら、今度は地上で流行っている服を着ればいいじゃないですか?」
「あら、それもそうね。でも私お金ないよ」
「お賽銭は?」
「置いてきた」
「仕方ないですね。僕が出しますよ」
僕は財布を取り出し予算を確認する。よし。遠出するからと念のため必要以上にお金を入れておいて正解だった。スマホで最も近くにある服屋を探し、ガイアソフィア様を連れて行った。
「いらっしゃいませ」
服屋に入店し、そのままガイアソフィア様と一緒に服を選び始めた。
ガイアソフィア様が手にすると彼女のことを見えない人たちには物が浮いている風に見えてしまうそうなので、一つ一つの商品を僕がわざわざ手にとって彼女に見せるという形になった。
「これとかどうですか?」
また一つ新しい商品を手にとった時、誰かに見られている気配を感じた。気のせいか……。いや、確実に店中の人の視線が僕たちに集まっていた。
「ガイアソフィア様!隠れてください!」
僕はガイアソフィア様に強くそう言ったが、「ははは」と彼女は僕を指差して笑うだけだった。
「何がそんなに面白いんですか?」
「いやぁ。今思えば、他の人から見られたら、君。男性客なのに女性ものの服を独り言を呟きながら選ぶ変な客だなぁと思って」
ガイアソフィア様の言葉の意味を僕は一瞬理解できなかった。いや、違う。きっと理解したくなかったんだ。
「オゥ、ノー!」と僕は心の中で叫んだ。完全に失意していた。僕は今ガイアソフィア様と二人で買い物をしていると思っていたが、周りからはそうは見えないんだった。
僕は居場所を失ってしまった。一体どうしたらいいのだろうか。
僕が何もできずに硬直していると、「大丈夫、私がなんとかしてあげる」とガイアソフィア様は言い残し、店から足早に出て行った。
「どこ行くんですかー!」
という声もむなしく、ガイアソフィア様からの返答はなかった。
もう、このまま何もなかったことにして帰ってしまおう。そう僕が考えた時
「お待たせー。遅れた」
店の入り口から一人の美しい外国人の女性が入ってきた。というかガイアソフィア様だった。しかも、服は大人の女性といった一般の服だった。
僕が驚きを隠せずにいると、ガイアソフィア様は「私は神様よ。大抵のことならなんとかなるわ」と自信ありげに言い放った。
「なんだ。普通の服も持ってるじゃないですか!」
「これは一昔前に天界で下界の服を着るのが流行った時があって、それでもってただけ」
「そうならそうと早く行ってくださいよー!」
「ごめんごめん。服もらえると思うと嬉しくなっちゃって」
もうこの人は……。でも憎めないんだよなぁ。僕はこの神様にきっとこれから先幾度となく振り回されるのだろう。そのことを悟った。
「で、その服はどうやって出したんですか?服持ってませんでしたよね」
気になっていた疑問を言う。
「それは簡単よ。念じれば服が変わるの」
「そんなことってありますか?」
「あるわよ!第一、私のような神様のいる次元は3次元よりも高いから、3次元の法則も容易に逸脱するの」
「そ、そうなんですね。ではもう一つ質問いいですか?」
「どうぞ」
「今って、ガイアソフィア様。周りに見られてますよね」
「えぇ、そうね」
なぜか知らないが、てっきりなくなると思っていた周りからの視線がより強いものになっていた。耳を澄ませると、「何あの美人さん。モデルさんかしら?」とか「きっとそうよ。写真撮ってもらおうかな」とか言う声が聞こえてきた。
「なんか、かえって目立ってませんか?」
「仕方ないわ。だってこの私の美貌だもの」
「それ自分で言います?」
「いいでしょ!というか君も私に惚れてるくせに!」
「その件は無しにしてください!」
「それにしても、なぜ周りの人にも見えているのですか?」
「それはね。私が波動を下げているからよ」
「そんなこともできるんですね」
「でも、とっても疲れるの。だからとっとと買って店でましょ」
二人でそのまま服を選び、レジで買って店を出た。
試着の時、ガイアソフィア様を見て、この人は何をしても似合うんだろうなと思った。それくらいこの神様は美しくてスタイルがいいのだ。心底敵わないなと思う。
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