第3話 下山

「あの。僕はこのまま帰りますけど、ガイアソフィア様はどうなされるのですか?」


 そう尋ねると、ガイアソフィア様は素っ頓狂な感じで答えた。


「君について行くけど」

「なんでですか」

「そう言っときながら、実は嬉しいんじゃないの?」

「勘が鋭いのもなしでお願いします」


 僕は登ってきた道を折り返して行き、歩く僕の後ろにガイアソフィア様がついてくるという形になった。


 しばらく無言で歩いていたが、気まずくなったので話題を見つけて話しかける。


「あの、ひとつ疑問に思ったことがあるのですが」

「何?」

「なぜガイアソフィアという名なのですか?」

「それは、大地を意味するガイアと叡智を意味するソフィアよ。つまり、大地の叡智ってことね」

「それは誰が名付けたのですか?」

「そんなの人に決まってるでしょ?」

「てっきり両親がいるのかと」

「いないわよ。神様っていうのはね、自然に宿るの!星には星の神様が、山には山の神様が……って感じにね!」


 数ある宗教のうち、アミニズムが正解だったということだろうか。なら、例えばキリスト教やユダヤ教、イスラム教の言う唯一神は一体何なのだろうか?ふと疑問に思っていると「そんなの簡単だ」と、明らかに人の心を見透かした発言があった。


「人の心覗かないでって、約束したでしょ!」

「ごめんごめん。どうしても見えてしまうものなの」

「どうにかならないんですか?」


 うーん、とガイアソフィア様は考え込んでしまった。神様にも悩むことはあるんだな。


「なら、君。何も考えるな!」

「無理ですよ、そんなの」

「まぁまぁ、私も極力見ないように努めるから」

「お願いしますね」


 本当にもう、思考盗聴だけは勘弁してほしい。


「で、何の話でしたっけ?」

「唯一神の話だろう?」

「そうでした。そこらへんの話よく教えてもらえませんか?」

「いいでしょう。要するに、唯一神という存在はね、この宇宙に宿る神様なんです。この宇宙の法則を司ります」

「唯一神はやはり神様の中でもトップなのですか?」

「そうよ。最高神とも呼ばれるくらい波動が高いのよ」


 波動……。僕はこの言葉のニュアンスを知っている。これはよくスピリチュアルなシーンで使われる言葉で、神社仏閣を巡ったり、修行したりら瞑想したりすると波動が高くなっていくと言われているものだ。


「波動、ですか」

「そういえば、君。君の波動、人にしては異常なほど高いんだけど、なんで?」


「よく神社仏閣巡りするからですかね」

 ガイアソフィアの質問にそう呟くと、「それだ!」と自信ありげに指差してきた。


「だから、私が見えるんだね、君は!」


 何か得心したらしく、ガイアソフィアは嬉しそうに声を上げる。


 その後も神様や宇宙にまつわる会話を交えながら僕とガイアソフィアは山を下っていった。

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