傲慢な男は最後に……

赤青黄

俺は正しい………

「俺は、間違ってない」

 一人の男が、血塗れになり大衆に向かって叫びを上げる。

 男の叫びは小さく石ころのような存在だったが。

 しかし誰かが、男の声を拾い上げた。

 男の声は、他人に渡され、それを繰り返した。

 男の上げた叫びは、いつのまにか、風船のように膨らんだ。

 男はまた言葉を上げる。

 「俺は正しい、間違ってるとは思っていない」

 その言葉は他の人達には醜く聞こえたのだろう。

 男の言葉に大衆は関心を向けて、罵声と嫌味を飛ばす。

 「自分本位で生活する男なんて、器の大きさが知れる」

 「他人を思いやれない人間は寂しく死ぬだけさ」

 どの意見も正論でとても正しい、しかし男は、自分が間違っているとこれっぽっちも思わなかった。

 男は、自分の行動を誇りに思い胸を張った。

 しかし世界は、男の方を間違ってると決めたらしい。

 その決断は、正しく間違っている。

 男は、世界によって傲慢の罪により鎖に繋がれた。

 冷たい部屋に入れられ、孤独を味あわせた。

 温かいスープは、毎日同じ味で出されて、部屋は男の思考を全て否定した。

 それでも男は、自分が間違っているとは考えない。

 傲慢の罪によりつけられた鎖にも笑われる

 スープは、鉛のように飲み込めなくなり、部屋の温度は最初よりも冷え込んだ。

 しかし男は、間違いを考えない。

 そして遂に痺れを切らした世界が、裁きを与えることになった。

 「汝、自分が間違ってると認めろ」

 世界は男を間違っていることを指摘する。

 周りにいる全てのもの達も否定した、誰も男の味方は居なかった。

 それでもめげずに言葉を上げる。

 「俺は間違っていない」

 真っ直ぐ世界に向けられた瞳は、透き通るように綺麗だった。

 そんな男に世界は、自分の思い通りに行かないものなど要らない、判決を下す音を鳴らす。

 「死刑」

 男は鎖を引っ張られ処刑上に連れられる。

 誰も男の事を見ようとはしない、誰も男の話を聞こうとはしない。

 そして引きずられながら男は、沢山のものたちが居る大広場に連れられた。

 人々は男に指先を向けて笑い合う。

 そんな大広場の空は透き通る様に青く澄んでいた。

 雲ひとつも浮かんでいない晴天が、男の最後に見る天気。

 それはなんとも、男にはもったいなかった。

 「さあ、最後に言い残すことは」

 処刑人が大きな断罪用の斧を鈍く光らせて男に問う。

 男は、青空を見上げて心臓に手のひらを当てる。

 どんなに一点の曇もない空でもいつかは、一つの雲が生み出される。

 そしていつの日か雨によってグシャグシャになってしまうだろう。

 しかしそれは、見上げた人による主観だ。

 晴天はずっとある、嵐になろうとも見えないだけで晴天はあり続けるのだ。

 男は、心臓から手を話し大衆に視線を向ける。

 一人の子供と目が合う子供は周りにいる、仲間たちの笑い合っていた。

 そんな姿に男は、安心し、優しい笑顔を作る。

 そして晴天の景色を自分には勿体ないと思いながらも。

 「俺は間違っていなかったんだ」

 と最後の最後に自分が、正しいと心のそこから呟いた。

 

 

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傲慢な男は最後に…… 赤青黄 @kakikuke098

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