#13 ~ 伯爵との面会

 俺が建物の外に出ると、リムジンみたいないかにもな高級車が止まっていた。

 だが俺としては、言われるがまま乗り込むわけにはいかない。


「あの、クロは……?」


 クロを放って車に乗り込むわけにはいかない。俺にとっては家族なのだ。


「ああ、それはご安心してくれていいよ。ギルドのほうで預かっておくから、用事が終われば迎えに来てくれればいい」


「その……一緒に行くわけには」


 と俺が言うと、シルトさんににっこり断られてしまった。

 おめぇ伯爵さまの家に犬連れ込むつもりかアァン? って顔に書いてあった気がする。



 リムジンから見る外の風景は、なんというか、イギリスっぽいと思った。

 もちろん、中世イギリスではなく現代イギリスだ。

 ゴシックだかバロックだかな感じの建物と、一方でビルやらカフェやら、デパートっぽい建物も混在する。


 異世界に来たというより海外旅行に来たという感じだ。

 俺の冒険は始まる前に終わった――という謎のナレーションが脳内に流れた気がするが、これはこれで暮らしやすくていいのかもしれない。


 なんて考えているうちに、喧噪賑やかな都市部を過ぎ、気がつけば背の低い建物が増え、いかにも田舎っぽい風景へと変わっていった。

 その田舎の風景に、あまりに似つかわしくない、ドでかい豪邸の目の前でリムジンは止まった。


「でか……」


 中世ヨーロッパ的な立派なお屋敷。

 見上げるほどの壁に囲まれ、ものすごく立派な門の向こうには、広さを間違えてるとしか思えない花壇やら池やらもある。

 ここだけ見たらちょっと中世ファンタジーっぽい屋敷だ。


 すると一人でに門が開いていき、車がそのまま進んでいく。

 守衛らしき人たちが敬礼してたぞ。なんかすごい場違い感が……。


「っていうか、庭広いですね……」


「はい。この庭も、お屋敷も、およそ五十年ほど前から受け継がれているものでございます。何度か改築はしておりますが」


 穏やかな声で答えたのは、同じ車の助手席に座っている、いかにも執事という感じの老紳士だ。名前はセバスチャンに違いない(断言)

 この車に乗っているのは俺、執事さん、そして運転手さんの三人。運転手さんは寡黙なのか、一度も喋ってはいない。


「あの、俺こんな服なのですが大丈夫なんでしょうか?」


 俺の服は魔物の皮をなめして自分で作った品である。当たり前だがオシャレ感はゼロ。執事さんのパリっとしたスーツに比べれば原始人感がある。


 俺の言葉に、執事さんはにっこり笑った。

 え? 無言なの?


 その理由は、庭を超えて、屋敷に到着してから分かった。

 車を降りた俺を待っていたのは、三人のメイド。「私は旦那様に報告いたします。それではよろしくお願いします」とセバスチャン(仮)が言うと、にっこり笑った三人のメイドに強制連行された。


 ちょ、え!? どこに連れてく気!? 待ってセバスチャン(仮)ィィィ!


 などという悲鳴を上げる間もなく、三人のメイドに服を脱がされ風呂にぶち込まれる。

 抵抗むなしく体を洗われ、お高そうな服に着替えさせられた俺は、ひたすら流されるがままであった。


 なんか大事なものを失った気がする……。

 でも久々の風呂は気持ちよかったなぁ……また入らせてくれないだろうか……。


「旦那様。お客様をお連れ致しました」


「うむ」


 ノックの後、返事を確認して扉を開いた執事さんに「どうぞ」と案内されて部屋の中に足を踏み入れる。


「よく来てくれた。ベリオル・オーランドだ」


「は、はじめまして。ユキトと申します」


 高そうな礼服――金とか銀とかいっぱい装飾があって、胸元にはいくつもの徽章が輝いている――を着た、いかにも高貴そうな人が、柔和な笑みを浮かべて握手を求めてくる。

 差し出された手を握って、改めてその人を見やる。

 金髪に青色の瞳。確かにあの時会った女性――イリヤさんと少し似ているように思えた。めちゃくちゃイケオジなあたりが特に。多分四十代だと思うのだが、三十代前半と言われても納得してしまえる若々しさだ。


「我が娘を救ってくださったと聞く。本当にありがとう」


「いえ、ただの偶然ですから……!」


 にこやかにお礼を言われて、思わず照れる。イケオジパパの魔力というべきか、これが女だったら、既婚者なのにコロっといっちゃいそうだ。


「偶然だとしてもだ。君がいなければ、娘は大変なことになっていた可能性が高い。一人の親として、君に感謝するのは当然だ」


「は、はあ……」


「まあ座ってくれたまえ」と案内されるがままソファーに腰を落とす。と、執事さんが流れるように机に紅茶を置いた。ソツがないってこういうことを言うんですね、はい。


「さて、後で家族にも会わせたいと思うのだが、先に少し、私の話を聞いてもらおうかとこの席を用意させてもらった」


「話ですか……?」


「聞いたところによると……どうやら辺鄙なところに住んでいて、色々なことに詳しくないとか」


 確かに俺は何も知らない。何せ山を下りるまで、この世界は剣と魔法の中世っぽいファンタジー世界だと思ってましたからね。


「我が娘を救ってくれた恩返しというわけではないが……どうかな。私に君を援助させてもらえないだろうか?」


 と、伯爵さまは、俺の予想もしていないことを言い出した。

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