#14 ~ Hello!! Work
「援助、ですか……?」
「簡単な話だ。この町に来たはいいものの、今後の予定は決まってないのではないかなと思ってね」
「ハンターギルドにでも入ろうかな、なんて思ってたんですが……」
山を下りる前の俺だって、完全なノープランだったわけじゃない。
幸いにしてじいさんに鍛えてもらった剣の腕があるし、なんか冒険者ギルド的なのに入ってお金を稼ごうと思っていたのだ。
……もっとも、俺の想像していた世界とはだいぶ違ったが。ハンターギルドはそれに近いのかな、と。
「それは難しいと思うよ」
が、伯爵さまにあっさりと否定され、俺は愕然とした。
「ハンターギルドも、学力というか知識面の試験があるからね」
「えっ」
伯爵は紅茶を一口含み、それを片手に小さく笑った。ものすごく絵になっている。紅茶に手を伸ばして固まった俺と違って。
「確かにギルドは、以前は戦闘能力を重視していたんだが、最近はそうでもないんだ」
曰く。ハンターギルド、というかハンターのありようは、ここ数十年で激変しているらしい。
ハンターは魔物を狩るものだ。だがそれは、ギルドの第一是に『魔物を狩り、人々に安全と安定をもたらす』とあるからだそうだ。
要は、ハンターとは民衆の味方、正義の味方というわけである。
ところが技術の発展に伴い、魔物はその数を減らし続けている。
むしろ最近では、犯罪やテロといったもののほうが、人々にとっては脅威となりつつある。
「そんな中で、ハンターギルドの存在意義というのも問われるようになってね。……何せコントロールできない独立した武力組織なんて、はっきり言って、国からすれば危険物以外の何者でもない」
実際、かつてのハンターギルドは荒くれ者の巣窟という感じで、中にはハンター自身が事件や事故を起こす例も少なくなかった。
そこでギルドは大改革を断行し、素行の悪いハンターたちに再教育を行った。
「そうして今のギルドは、魔物を討伐するだけでなく、時に警察や軍の要請によって民間人の保護にも動く。無論、ある程度の制限はあるが。
それゆえに、ギルドの試験では過去の素行や経歴も参照されるんだ。警察や軍に協力する人間が、危険な人物であってはならないからね。……君はまだこの国での戸籍もないだろう? ギルドの試験を通るのは難しいんじゃないかな」
全くもって仰るとおり。ぐうの音も出ないとはこのことだ。
これは他でも同じことだ。経歴不詳、学歴もない、どこの誰だか分からない、そんなやつを採用する企業なんてありはしないだろう。
……つまるところ俺は、職にあぶれるというわけだ。
「そこでだ。我が伯爵家で、君にこの国で生きていくに困らない程度の知識を教えよう。もちろん衣食住についても我が家が提供する。どうかな?」
「……条件は?」
話がウマすぎるよォ!!
ウマい話はウラがある、タダより高いものはない。これは常識である。
いくら娘が助けられたからって、無条件でそんなことはしないだろう。
無言で紅茶のカップをソーサーに戻した伯爵は、やはりにっこりと笑った。怖っ!
「話が早くて大変助かるね。……君にはぜひ、私が顧問をしている学院の剣術講師をやってもらいたい」
「……学校で剣を教えてるんですか?」
「もちろん。軍学校だからね。武器習熟は必修だ」
それは意外だ。銃がゴロゴロある時代に剣が必修とは。……いや確かに、魔物に襲われてたイリアさんは剣を使ってたな。
「君はおかしなことを気にするな」
今度こそ、伯爵は呆れたような笑みを浮かべて、
「例えば君がライフルで武装した集団に襲われたとして……負けるかね?」
「……すみません、やったことないので分かりません……」
「ほう、そうか。やってみるといい。……銃というのは、魔法や魔力が使えない人間が使うものだ。まあそれでも、軍の大多数がそうだから、主力であることは事実だがね」
へぇ、と思った。
じいさんが教えてくれた剣が無駄になるってことはなさそうだ。
「いえ、しかし修行中の身なので」
「もちろんずっとというわけではない。君が希望するならそれでもいいが、学院の剣術講師という経歴があれば、他の職業も就ける土台になる。ハンターとかね」
ぐ、と言葉に詰まる。
今の俺に選択肢はないのだと、伯爵の目がそう言っている気がした。
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