第33話:エピローグ前
結果を語ろう。
黄金の斧の指紋の検出から蕪木殲滅と蕪木制圧を殺したのは混沌さんということになった。そしてこれまた指紋の検出から殺戮を殺したのは蕪木制圧となった。蕪木制圧は既に死んでおり罰せられることはなかったがカオス姉妹の妹こと有田混沌さんはそういうわけにもいかなかった。
混沌さんが殺した蕪木殲滅と蕪木制圧の件は反論証拠も無く混沌さんの罪となった。混沌さんは一言も否定しなかった。今は混沌さんは裁判を待つ身だ。
そしてこの首切島でのドメスティックバイオレンスはニュースという形を取って全国に知れ渡った。一時蕪木財閥の所有する数々の会社の株の価格が、混乱さんが青ざめるほど下がったらしいが……俺も無害も気にしなかった。蕪木財閥の頭目は蕪木無害と決まり、無害が学生生活を満喫する間、その一切の処理を混乱さんが担当することとなった。
「混乱さんが蕪木殺戮の遺産を私欲に使ってもいいのか?」
と問うた俺に、
「いいよ……。どうせ……無害には……使いこなせない……から……」
あっさりと無害。
金銭価値に意義を見出してはいないらしい。しかして……これは後で知ることになるが、有田混乱さんはあくまで無害の後見人として財産の管理と蕪木財閥の運営を行なって、一度たりとも私欲のために財力や権力を用いることはなかった。見上げた滅私奉公である。
ともあれ無害は実質蕪木財閥のトップに躍り出てその運営を混乱さんに任せるとしても、さすがに施設生活では体裁が悪いということで高級マンションの一室を借りた。高校ももっと高レベルの所を勧められたらしいが「藤見と……一緒に……いたい……から……」という理由で聖ゲオルギウス学園高等部に相も変わらず通っている。
五月の間は首切島で起こった事件と蕪木財閥の頭目になったこと……くわえてとんでもない美少女であることも手伝って一時無害は時の人となったが、一ヶ月も経てばマスメディアも興味を失くし、六月のとある日……無害は俺と一緒に聖ゲオルギウス学園高等部の校舎に囲まれた中庭で平和な昼食を楽しんでいた。
ちなみに無害に対するイジメの件だがこれはさっぱり無くなった。さすがに蕪木財閥の頭目に手を出そうと考えるアホウはいないということだろう。結果オーライだが複雑な気分でもある。
「平和だな~」
購買部で買ったパンを齧りながら俺。
「うん……。本当に……ね……」
自作の弁当を食べながら無害。
「今何の本読んでる~?」
「ザ・コア……」
「あー、あれか。完全にギャグ小説だよな」
「あの船だけで……何個のノーベル賞が……もらえるのかって……感じだし……ね……」
「まったくまったく」
パンを齧りながらうんうんと頷く俺。
「…………」
「…………」
そして沈黙。俺達は校舎に区切られた四角い青空を見上げながら昼食を黙々と食べた。それから……、
「あの……藤見……」
「なんだ?」
「藤見は……一ヶ月前のあの事件……どう思ってる……?」
「どう思ってるも何も……感慨もわきようがないってのが本音だな」
パンを齧りながら俺。
「そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
「無害は……あの事件に……納得できない……」
「指紋検出で犯人は決まっただろ? 今更納得できないなんて言われてもな」
「本当に……制圧様を……殺したのは……混沌さんなの……?」
「それは確かだ。俺が直接見たからな」
「でも……おかしいよ……」
「何が?」
「無害を……襲おうとした……殲滅様は……一時的とはいえ……殺さないで……それなのに……制圧様は……殺すなんて……」
「…………」
「そもそも……殲滅様を……殺したのが……混沌さん……っていうのも……不思議……。だって……既に殲滅様は……無力化されている……。なら……混沌さんが……殺す必要も……ない……」
「…………」
「それに……制圧様が……殺戮ちゃんを……殺したっていうのも……信じられない……。制圧様が……無害を……殺しに……来たとき……制圧様は……手袋をしてたんでしょ……? そんな……制圧様が……わざわざ……殺戮ちゃんを……殺す時に……指紋を……残したとは……考えられない……」
「でも事実そうなんだから納得するしかないだろ?」
「納得……できない……」
「……あっそ」
俺はパンを齧った。
「藤見……」
「なに?」
「藤見は……あの事件の……裏を……知ってる……?」
「なんでそう思うんだ?」
「なんとなく……だけど……藤見は……聡いから……」
「まぁ知ってるっちゃ知ってるが……聞いて楽しいもんでもないぞ?」
「教えて……」
「なんでそんなに知りたがる?」
「だって……知らなきゃ……殺戮ちゃんが……浮かばれない……」
「……あっそ」
「本当に……殲滅様と……制圧様を……混沌さんが……殺したの……? 本当に……殺戮ちゃんを……制圧様が……殺したの……?」
「うんにゃ? 違うぞ? いや、蕪木制圧を殺したのは紛れもなく混沌さんだが……それ以外については頓珍漢だ」
「やっぱり……。じゃあ……殺戮ちゃんと……殲滅様とを……殺した犯人は……誰……?」
「教えない」
「なんで……?」
「知ればお前は後悔するから。事実は既に出来上がっている。この上改ざんをはかろうなんてのは歪みを生むだけだ」
「誰に……言うわけじゃ……ないよ……。ただ……真実が……知りたい……だけ……」
「誰にも言わないって誓えるか?」
「それは……話を……聞いてから……決める……」
「はあ……安直にイエスと答えていれば俺も拒否できたのになぁ……」
「あの事件の……真相……教えて……くれる……?」
「まぁ構わんがね……。本当に聞いて楽しいもんじゃないぞ?」
「それでも……いい……」
「じゃあ……まずどこから話したものかな……」
俺は青空を仰ぎながら「ふぅむ」と唸った。そして言う。
「まず初めに……三つ……知らなきゃいけない前提条件がある」
「三つ……? 前提条件……?」
「そ」
パンを齧りながら俺。
「三つの……前提条件……って……?」
「まず一つ。俺は不死身の怪物だ」
「藤見の……怪物……?」
「漢字が違う。死な不の身と書いて不死身だ」
「殺しても……死なないって……こと……?」
「そゆこと」
「そんなの……荒唐無稽じゃ……ない……?」
「別に信じる必要はないさ。疑って当然のことだからな」
肩をすくめる俺。
「ううん……信じる……よ……。藤見の……こと……」
「そりゃどうも」
「それで……藤見が……不死身の……怪物で……どうなる……の……?」
「今話してるのは前提条件だ。質問は後にしてくれ」
「うん……」
「二つ目。蕪木殺戮は男だ」
「へえぇ………………え……?」
「だから蕪木殺戮は男だ」
「冗談じゃ……ないんだよ……ね……?」
「別に冗談でもいいぞ? 話を止めるだけだから」
「そう言えば……前提条件……だった……ね……」
「三つ目。首切島で起きた殺人事件は四件ということだ」
「殺戮ちゃんと……制圧様と……殲滅様以外に……人が……死んだってこと……?」
「そういうことだな」
「誰が……死んだの……?」
「俺」
「は……?」
「だから俺が殺された」
「でも……藤見……生きてる……よ……?」
「不死身の怪物だからな」
「あ……そっか……」
「さて、前提条件も話し終ったし順繰り語っていくか」
「うん……お願い……」
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