第34話:エピローグ後


「まず最初に殺されたのは俺だ」


「藤見が……最初に……」


「ああ」


「何で……?」


「蕪木殺戮の裸を見たから」


「殺したの……は……?」


「蕪木殺戮」


「そんな……嘘……。殺戮ちゃんが……裸を……覗かれた……くらいで……人なんか……殺さないよ……」


「別に俺が覗いたから殺したってわけじゃねえよ。いや、まぁ事実はその通りだが……ニュアンスが違う」


「?」


「俺は偶然とはいえ蕪木殺戮の裸を見てしまって秘密を知ってしまった」


「秘密……?」


「蕪木殺戮が男だって事実だ」


「藤見が……殺戮ちゃんを……男だって……知ったから……殺戮ちゃんは……藤見を……殺した……の……?」


「そういうことだな」


「でも……そんなの……嘘だよ……。そんなことで……殺戮ちゃんが……藤見を……殺すなんて……」


「いや、必要な処置だった。これについては俺も後で気づいたんだがな。蕪木殺戮は俺を殺さねばならなかった」


「何の……ために……?」


「口封じ」


「口……封じ……?」


「そ。口封じ。蕪木殺戮を男だと知る人間が首切島に居ちゃいけなかったんだ」


「なんで……?」


「そうでなければ後の殺人に後遺症を残すことになるから」


「後の……殺人……」


「そ。蕪木殲滅を殺したのは……蕪木殺戮だ」


「殺戮ちゃんが……?」


「ああ」


「でも……藤見は……あの殺人は……祟りだって……」


「ああ、祟りだ。そりゃ間違いない」


「じゃあ……それは……オカルトの……範疇で……殺戮ちゃんのせいじゃ……!」


「あの首切島で一番偉かったのは誰だ?」


「殺戮ちゃん……」


「俺は言ったよな? 主に障ったせいで蕪木殲滅は殺された……つまり祟りだって」


「うん……」


「実際蕪木殲滅はあの首切島の主である蕪木殺戮の逆鱗に触れた。だから殺された。つまり……祟りだ」


「殺戮ちゃんの……逆鱗って……?」


「お前だろ」


「無害……?」


「蕪木殲滅は無害に暴行をはたらこうとした。蕪木殺戮を怒らせるに十分な動機だ」


「でも……おかしい……よ……。殺戮ちゃんは……凶器を……黄金の斧を……持てないはずだ……よ……?」


「蕪木殺戮がか弱い女子ならな」


「……!」


「そう。蕪木殺戮は蕪木殲滅を殺しておいて……その容疑者から外れるためにか弱い乙女を演じることにしたんだ」


「じゃあ……自分が……男だってばれたら……容疑者に……該当してしまうから……殺戮ちゃんは……藤見を……殺したの……?」


「いい理解力だ」


「そんな理由で……」


「でもまぁ実際俺が死ななくて内心焦ってたろうな」


「…………」


「で、次に殺戮を殺した奴だが……」


「うん……」


「俺だ」


「……………………え……?」


「だから蕪木殺戮を殺したのは俺だ。当然黄金の斧を運んだ時も混沌さんと蕪木制圧がどの斧を持ったか……つまり二人の指紋がどの斧についてるのかも把握していた。その上で蕪木制圧の指紋のついた斧を使って蕪木殺戮の首を断った」


「でも……あれは密室殺人……だったよ……?」


「そんなの簡単だ。蕪木殺戮の執務室の鍵を使って扉に施錠する。それからピッキングツールで鍵を開ける。俺以外の全員が蕪木殺戮に注目している間に鍵を床に落として、さも部屋の中で拾ったように演出する。それだけだ」


「なんで……藤見は……殺戮ちゃんを……殺した……の……?」


「命の補充のため」


「命の補充?」


「そ。先に言ったよな? 俺は不死身の怪物だって」


「うん……」


「正確には不死身とは違うんだ。俺は他人から命を奪ってストックすることができるんだ」


「どういう……こと……?」


「俺の命のストック上限は百八つだ。つまり俺は百八回死なないと完全に死ぬことはないんだ。そして失った命の分は他人から奪うことで補充できる。その……命の補充方法は殺人ってだけのこと」


「つまり……殺戮ちゃんに……奪われた……命を……殺戮ちゃんを……殺すことで……補充したって……こと……?」


「そういうことだな」


「自業自得……なのかな……?」


「お前……蕪木殺戮を殺した犯人は許せないんじゃなかったのか?」


「でも……これは……先に……手を出した……殺戮ちゃんが……悪いよ……」


「憎んでもいいんだぞ?」


「藤見を……? 出来ないよ……」


「あっそ」


「そして……混沌さんが……制圧様を……殺して……お終いって……こと……?」


「そういうことだな」


「でも混沌さんに制圧様を殺す理由なんて……」


「あるよ」


「へ……?」


「理由ならある……と思う」


「曖昧模糊……だね……」


「多分、蕪木殺戮に罪をきせないため。そして無害に遺産を全て引き継がせるため」


「どういう……こと……?」


「おそらく混沌さんは蕪木殲滅を殺したのが蕪木殺戮だと気付いたはずだ」


「なんで……わかるの……?」


「蕪木殲滅の首を断った黄金の斧を混沌さんは平然と持ち上げたろう? つまり自分の指紋を黄金の斧に付けるためだと思われる。これで蕪木殺戮は完全に容疑者から外れる。少なくともあの時点ではな。そして元々蕪木制圧と蕪木殲滅を殺すために首切島に呼んだ蕪木殺戮の意図を読んだんだろ。それ故に蕪木制圧も殺した」


「そんなこと……無害が……喜ぶとでも……」


「思ってないだろうさ。混沌さんは……混乱さんもだが……ただの現象だよ。ただただ蕪木殺戮の思った通りに動く人形だ。だから自分を損得勘定に入れない」


「…………」


「ま、それが悪いとは言わんがね」


「じゃあ……殺戮ちゃんは……無害に……全ての遺産を……相続させるために……あの島に……蕪木の直系を……集めた……の……?」


「ま、そういうことにならあな」


「殺戮ちゃんも……制圧様も……殲滅様も……死んじゃった……」


「そうだね~」


「じゃあ……無害は……どうすればいい……の……?」


「いつも通りのお前でいろ。弱くて儚いお前のままでいろ」


「それでいいの?」


「そんなお前だから俺は惚れたんだ。心の強いお前なんて気味が悪い」


「でも無害のせいで蕪木の直系が三人も死んじゃった」


「お前の罪じゃないだろう?」


「でも……原因は……無害……」


「そんなことないぞ」


 俺は無害の頭部を抱きしめた。


「お前のせいじゃない。全ては巡り会わせが悪かっただけだ。気にするな」


「そんなこと……できない……」


「そっか……。じゃあ……泣いとけ」


 俺は抱いている無害の頭をギュッとした。


「うう……殺戮ちゃん……制圧様……殲滅様……」


 無害は泣いた。それはまるで弔いのようだと俺は思った。


 ――ま、いいんだがな。




 End

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ふじみくん事件簿 揚羽常時 @fightmind

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