第28話:加速する惨劇05


 結局のところ、


「皆で集まれば怖くないじゃん」


 と言う意見によって皆々キッチンに集まっての夕食になった。当然殺戮もいる。本来なら……殺戮を除くメンバーで夕食をとった後、全員で殺戮の執務室へと行き殺戮が食事をとるところを監視せねばならないのだが……まぁそれはいいとしよう。どっちにせよ定期的に鍵の安否に気を使うことで全会一致と相成った。


「………………今日の夕食は海鮮XO醤あんかけ焼きそばとなります」


「うおお……」


 出された焼きそばは豪華なエビやイカやホタテが贅沢に盛られた豪勢なモノだった。ブルジョアジー……おおブルジョアジー……。ダイニングテーブルの下座に座っている俺は手を合わせて、


「いただきます!」


 と言って海鮮ほにゃらら焼きそばを食べ始めた。


「混沌さん……いい仕事です」


「………………藤見様……恐縮です」


 一礼する混沌。


「さすがに馬の骨は神経が図太いな……」


 そう皮肉る蕪木制圧に、


「なに? 食べないの? ならもらっていい?」


「やるか! 食べるが……食欲のわきようもあるまい。貴様と違ってな」


「そう?」


 箸をくわえたままグルリと周囲を見渡すと、俺と混沌さん以外は負のオーラを漂わせていた。


「いったい誰が殲滅兄様を……」


 ボソリとそう呟く殺戮に無害に混乱さんに蕪木制圧がビクリと震える。俺はケラケラと笑って言った。


「そんなの気にしてもしょうがないじゃん。それより海鮮焼きそば食えよぅ。美味いぞ?」


「………………恐縮です」


 また一礼する混沌さん。


「混乱さん。水ちょうだい」


「あ、はい。少々お待ちを」


 混乱さんはキッチンに消えて、グラスのコップにミネラルウォーターを注いで持ってくると、


「どうぞ」


 と俺の席にグラスを置く。


「ありがとうございます」


「いえ……」


 とても昨日までのほんわかオーラを纏ったカオス姉妹の姉とは思えなかった。殺人に恐怖しているのだろう。と、そこに、


「気にしないわけにもいくまい……!」


 蕪木制圧がそう言ってきた。


「愚弟が殺されたのだぞ! たしかにあ奴は金を浪費するくらいしか能のない奴ではあったがそれでもまぎれもなく蕪木家の直系だ。殺されるなど断じてあってはならない……!」


「意外だな。遺産分配の相手が一人減って万々歳かと思いきや」


「蕪木家にあだなす不埒者がここにいるのかもしれないのだぞ。あるいはこの食事に毒が入っていたらどうする?」


「まぁその時は死ねば?」


「死ねるか!」


「ええ? 毒をくらっても死なない気?」


「そういう意味ではない! そうではなく誰が犯人か早急に解決を求めるべきだと……」


 と、蕪木制圧はそこまで言って、


「ははあ。さては馬の骨。貴様が犯人か!」


 俺の服の襟はズリッと滑って肩を露出させた。


「何を根拠に?」


「貴様だけがこの場において気後れしていない。しかも祟りだ気にするななどと言って誤魔化そうとする始末。そして何より部屋の置かれた黄金の斧を持てる……!」


「でも動機がない」


「動機ならある」


「拝聴しましょう」


「そこな雌犬の子が蕪木財閥の権力と財力を手に入れれば貴様とてその恩恵にあずかれるだろう……?」


「なるほど。それは思いつかなかった。蕪木制圧、痛い割に頭がよく働くじゃないか」


「誰が痛い!」


「ええ? 髪をオールバックにしたり一人称が我だったり中二病全開じゃないか」


「権威を示していると言ってもらいたい」


「まあ……本人が満足ならそれでいいがな。それに俺にしてみればあんただって十二分に怪しいぞ?」


「我のどこが怪しいというのだ!」


「遺産の分配に積極的に異を唱えていたのはお前だろう?」


「ぐ……」


 返す言葉無く呻く蕪木制圧と、それから俺に向かって、


「や……止めようよう……制圧様も藤見も……疑ったら……キリがないよ……」


 そう忠告してくれる無害。


「ああ、少し言い過ぎた。この状況で不安をあおってもしょうがないしな」


 俺はポンと無害の頭に手を乗せてワシャワシャと撫でてやった。


「不安にさせてごめんな」


「うん……それは……いいんだけど……」


「とりあえず焼きそば食おうぜ。飯食わなきゃ始まらん」


 俺はズゾゾと海鮮焼きそばをすする。


「うん……そうだね……」


 無害も海鮮焼きそばに口をつける。それを皮切りに他の面々も海鮮焼きそばに手をつけ始めた。そうやって本日の夕食は終わった。夕食も終わり、それから殺戮を除く全員は風呂場の扉の前で待機していた。殺戮の一番風呂を監視するためだ。一応のところ殺戮は執務室の鍵を風呂場まで持っていく予定だが犯人がお風呂中の殺戮を襲って鍵を奪っては元も子もないということで混乱さん以外は脱衣所の扉の前で待機していた。混乱さんは殺戮の体を洗う係りとして殺戮と一緒に風呂場に入っている。それから風呂が終わった殺戮を全員で執務室まで送って、殺戮に鍵の安否を確かめた後、執務室の施錠の音を聞いて解散となった。それから風呂に入って歯磨きをした後、俺の部屋で無害が言う。


「もうこれで……殺人事件は……起きないよ……ね……?」


「さてどうかな?」


 俺は同意しなかった。


「それより寝ようぜ。まぁ寝ているところで殺されたなら苦痛も少なくて済む。死ぬときはあっさり死のうぜ?」


 俺は無害を抱きしめて就寝した。そして……次の殺人が始まる。

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