第27話:加速する惨劇04
「制圧様は……殲滅様の遺産を……丸ごと受け継ぐつもりじゃないかな……」
「なるほど。それは考えてなかった。しかし仮に蕪木制圧が犯人だとするなら次の狙いは……もちろん無害だな」
「そう……だね……」
怯えるように無害。そうして怯える無害に、
「ほら、こっちに来い無害……」
俺は手招きをする。
「藤見……」
手招きする俺につられて、ふよふよとおぼつかない足取りで俺へと歩み寄る無害を俺は捕まえる。そしてギュッと抱きしめた。
「例え誰が犯人だろうとお前に傷一つ負わせないぞ。俺がお前を守ってやる。だから……安心して生きろ」
「ふえ……ありがとう藤見……」
俺に抱かれながら無害。
「無害は……生きていいの……?」
「当たり前だ」
「無害は……存在していいの……?」
「当たり前だ」
「無害は……」
「それ以上何も言うな。蕪木無害を卑下するものは誰であろうと許さないぞ。例えそれが本人であってもな……」
「ふえ……」
と呟いて無害は俺の腕の中で泣いた。それは純粋な涙だった。そして無害が泣き終わるまで抱きしめた後、
「………………では、もう当方の守護は必要ないと?」
そう問う混沌さんに、
「そういうことです」
俺は頷いた。
「………………ならばいいのですけど」
混沌さんは俺の部屋から退室した。
「やっぱり……混沌さんに……居てもらった方が……良かったんじゃない……かな……」
「黄金の斧は蕪木殺戮が管理しているし、これ以上警戒する必要もないだろう……」
「でも……もし殲滅様殺害の犯人が……制圧様なら……次の標的は……無害ってことに……なるよ……?」
「だから前から言ってるだろう? 蕪木殲滅を殺したのは祟りだって」
「そんな……わけわかんないものに……殲滅様が……殺されたって言うの……?」
「祟りは実在するぞ?」
「オカルトの……範囲だよ……」
「いやいや……物理的にだ」
「無害を……からかってるの……?」
「まさか」
「でも祟りって……」
「この首切島の主に障った。それだけで首を切られる祟りは発動するさ」
「祟り……」
「そ、祟り……」
「「…………」」
俺と無害は一時沈黙する。
「無害には……理解できないよ……」
「幽霊や妖怪変化や鬼が存在するように。オカルトと言われる魔法や魔術のように。精霊や妖精の類のように。確かに存在するんだ」
「嘘……」
「嘘じゃないぞ? 俺はそれらに関わって生きているからな」
「じゃあ……今回の……殲滅様の殺害には……幽霊や……妖怪変化や……鬼や……魔法や……魔術や……精霊や……妖精が……関わっているとでも……?」
「そうとは言わんがな」
「どういうこと……?」
「ただ幻想的な生物は確かに存在するってだけの話だ。そして今回蕪木殲滅を殺したのは祟りによるモノだってだけだ」
「そんなこと……信じられない……」
「信じる必要はないさ。別にそれで俺が困ることは無い」
「でも……藤見は言うんでしょ……? 今回の事件は……首切島の祟りだって……。殲滅様が……首切島の主に……障ったからだって……」
「まぁな」
「そんなことが……ありえるの……?」
「ありえるから祟りというんだ」
「首切島の呪いだと……」
「そういうことだな」
俺は閉じていた本を手に取って読みだした。
「やっぱり……信じられないよ……」
「だーかーらー信じなくていいって言ってんだろうが」
「じゃあ……信じないとして……いったい誰が……殲滅様を……?」
「黄金の斧を扱えるのは俺と蕪木制圧と混沌さんだけなんだろう?」
「それは……まぁ……」
「祟りじゃないとするならこの三人の誰かだろ」
「ふえ……藤見は……自分が犯人じゃないって……否定しないの……?」
「否定して誤魔化されるなら否定するが、そういうわけにもいくまい?」
「それは……」
「ま、後ろめたいことがないなら堂々としてればいいんだよ」
ペラリと小説のページをめくる俺。
「無害は……恐いよ……」
「蕪木制圧が犯人だった場合にか?」
「それも……だけど……藤見を……完全に信じきれないってことに……」
「…………」
ふぅ、と俺は蝶の羽ばたきのような溜め息をついて、
「よしよし、無害……」
無害を強く抱きしめる。
「藤見……」
無害は俺の腕の中で安心の吐息をついた。窓の外ではそんな俺達をあざ笑うようにビョウビョウと颶風が吹き荒れていた。
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