第20話:惨劇の足音07
「てめ……! 俺を踏み台にしといてよくそんなことが言えるな!」
「いいじゃん踏み台にしたくらい。地球の公転周期が変わるわけでもあるまいし」
「じゃあ俺がお前を踏みつけても構わんというんだな?」
「にゃはは。構わないよ?」
「その言葉、忘れるなよ」
そう言い合って白熱する俺と殺戮に、
「二人とも……仲良くプレイしようよぅ……」
一人遠慮がちにゲームをプレイする無害。そうやってやいのやいのとテレビゲームをプレイする俺達に、
「こっちは真面目な話をしているんだ! いい加減低俗な話は止めろ!」
と、蕪木制圧が一喝した。
「ひ……! ごめん……なさい……」
無意識の刷り込みからかコントローラーを手放してそう謝る無害。
「いきなり大声出すなよ蕪木制圧。うちの無害が怯えているじゃないか」
俺は怯える無害の頭を抱き寄せてそう制圧に抗議する。
「ふん。雌犬の子に興味など無いわ。それより殺戮、いますぐ我に蕪木財閥の総資産を渡せ。我ならば誰よりそれを扱いきれるだろう」
「だから遺産は制圧兄様と殲滅兄様と無害ちゃんに平等に渡すって言ってるじゃんのジャンバルジャン。視界の狭い制圧兄様にだけ渡すわけにはいかないよ」
「我にどこが視界が狭いというのだ!」
「無害ちゃんを排斥しようとしたり、殲滅兄様を貶めようとしたり、そういうところ」
「事実だろう!」
「たとえそうだとしても選民思想に頭まで浸かっている制圧兄様に全てを託そうとはまったく思えないね」
ゲームの中の俺のキャラクターを踏み潰しながら殺戮。
「では我以外の誰に蕪木財閥を預けるつもりだ!」
蕪木制圧はそう激昂する。
「だから制圧兄様と殲滅兄様と無害ちゃんに平等に渡すって何度も言ってるでしょ? いい加減こっちもうんざりなんですけど」
金髪を波打たせて蕪木制圧へと振り返る殺戮。その目には確固たる意志が宿っていた。
「しかしそれでは……!」
「蕪木財閥の遺産は上手に扱われないだろうって? そんなこと聞き飽きたよ。それにどうせ制圧兄様に全てを渡したところで自分の地固めしかしないでしょ」
「それのどこが悪い!」
「悪かないけどつまんないなってこと……って! ああ! なんで私を踏み台にするのさ藤見さん!」
「お前が先にやっただろうが……」
俺は落ちていく殺戮の扱っているキャラクターをしり目に、次の陸地へと着地する。
「もう。一回死んじゃったじゃないか。どうしてくれるのさ藤見さん!」
「どうもするかよ。目には目を。歯には歯を。踏みつけられたならば踏みつけを。シャマシュ神だってそう言ってる」
「ううう……!」
と唸る殺戮。
「こっちの話を聞いてるのか殺戮!」
そう激昂する蕪木制圧。
「聞いてないよ~」
あっさり殺戮。
「我を無視して許されるとでも思ってるのか殺戮! 貴様など晩年父上が気まぐれでつくった子のくせに……」
そんな蕪木制圧の言葉に、
「…………」
ピクッと反応する殺戮。それから一時ゲームを中断すると、
「制圧兄様?」
双眸に爛々と怒気を光らせ、しかし表情はニッコリとしながら殺戮は言った。
「今私の父様と母様を侮辱した?」
それは圧倒的なプレッシャーを蕪木制圧に与えた。
「う……いや……」
と狼狽える蕪木制圧に、
「そっか。そんなに私の機嫌を損ねたいんだ。いいよ。私が遺言書に書く内容が制圧兄様にどれだけ不利になろうと構わないと言うんだね?」
「違う! そういう意味で言ったわけでは……!」
「じゃあどういう意味さ?」
「…………」
「無害ちゃんを侮辱して、藤見さんを馬の骨と罵って、遂には私の父様と母様まで侮辱する。私の寛容を安く見ないでほしいな」
「口が過ぎた。それは謝ろう」
「謝ってないじゃん」
「ぐ……」
「ごめんなさいは?」
「ぐ……我は本丸の長男だぞ! 人に頭を下げることなどあってはならぬ……!」
「あっそ。よかったね無害ちゃん。無害ちゃんに蕪木財閥のひとつなぎの大秘宝の半分を渡せるよ」
弾むようにそう皮肉る殺戮。
「ふえ……」
無害はといえば、殺戮と蕪木制圧を交互に見ながら戸惑うばかりだ。
「待て! それでは話が違うではないか!」
焦るように蕪木制圧。
「だってごめんなさいの一言も言えないような狭量な人間に渡すモノは何もないよ?」
「……すまなかった」
「誠意が足りない。私の父様と母様と、それから無害ちゃんと藤見さんに対して最大級の謝罪を要求するよ」
「どうすればいいというのだ!」
「ど・げ・ざ」
「この我にそんなことをさせると言うのか!」
「嫌なら良いよ。蕪木財閥は殲滅兄様と無害ちゃんに渡すだけだから。さて、遺言書を書きなおそうかな……」
殺戮は立ち上がる。
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