第19話:惨劇の足音06
夕餉を終えて混沌さんに謝辞を述べた後、俺と無害と殺戮は殺戮の執務室に足を運んだ。もちろんテレビゲームをするためだ。しかして執務室の扉まで歩いたところで、
「…………」
俺は沈黙し、
「ひ……!」
無害は怯え、
「はぁ……」
殺戮は嘆息した。
「我に対してなんだその反応は殺戮よ」
傲岸不遜に益荒男こと蕪木制圧。どうやら蕪木制圧は俺と無害を無視する腹づもりらしい。まぁ願ったり叶ったりだ。
「とりあえず執務室に入ろうね制圧兄様」
「うむ」
と大様に頷いて扉から一歩引く蕪木制圧。殺戮はこの蕪木屋敷で唯一鍵のついている執務室の施錠を開放して、扉を開けた。俺達に振り分けられた部屋三つ分をぶち抜いてつくられた執務室はやっぱり広かった。一目で高級とわかる家具や調度品が散見される。西側の壁には大きなスクリーンがあり、さらには投影機まであった。もしかしてあれでテレビゲームをやるつもりなのだろうか? 以前にも一回来たにも関わらずあまりの豪奢さに気後れする俺。そんな俺を無視して、
「それで……」
蕪木制圧が殺戮に声をかけた。しかし、
「ちょっと待ってて制圧兄様。ゲームの設定をしなきゃいけないから」
殺戮はそう蕪木制圧の言論を封じた。
「たしかこれがこうで……これがこうだったっけ……?」
などと自問しながら殺戮はコンシューマーゲームの配線を繋いでいく。そしてゲーム本体を投影機に繋げて準備完了。
「よし!」
とニッコリ笑って殺戮は準備を終えた。それから配管工が亀と戦いお姫様を助け出すゲームを起動させる。
「もういいか?」
じれったそうにそう聞く蕪木制圧に、
「もうちょっと待って」
そう返す殺戮。
「殺戮ちゃん……無害達のことは……後でもいいよ……?」
あわあわと狼狽しながら無害。しかし殺戮は臆しない。
「何言ってんのさ無害ちゃん。私はね、無害ちゃんや藤見さんと遊ぶためにここにいるんだよ? だからそっちが優先事項」
「はあ……でも……」
「気後れする必要はないよ。どうせ制圧兄様の言葉なんて似たり寄ったりだから」
「殺戮……貴様……!」
怒りもあらわに蕪木制圧。しかして殺戮は動じない。
「じゃ、私が一コンね。無害ちゃんが二コンで藤見さんが三コンでいいよね?」
「俺は構わんぞ」
「無害も……それでいい……」
「じゃあ私が配管工の兄を使うから」
「じゃあ俺はキノコ野郎を使うか」
「なら……無害は……配管工の弟を……」
そうしてキャラをきめて俺達はゲームを開始した。部屋の西側の巨大なスクリーンに投影されたゲーム画面を揃って見ながら俺と無害と殺戮はゲームを始めた。と、そこでようやく……、
「いい加減にしろ殺戮! これは蕪木家にまつわる由々しき問題だ! ゲームなどという俗なことをしている場合か!」
蕪木制圧がそう激昂した。しかして殺戮の反応は冷ややかだった。
「なにさ? 遺産の分配についてはもう言ったでしょ? 制圧兄様と殲滅兄様と無害ちゃんに平等に分配するって」
栗の形をしたモンスターを踏み潰しながら殺戮。
「しかし殲滅には才能がない。雌犬の子には実力がない。必然、我が蕪木財閥の全てを継承するに足る人間であることは否定できまい?」
「大丈夫。殲滅兄様が遺産をどう使おうが気にすることでもないし、無害ちゃんには混乱をつけるから……って……何回言えば気が済むの?」
俺の扱っているキャラクターを踏み台にしながら殺戮。必然、俺の扱っているキャラクターは深淵の闇へと堕ちていった。
「このやろ……!」
「にゃはは、これも運命だよ」
殺戮は面白いと言わんばかりにくつくつと笑った。
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