第18話:惨劇の足音05


「あ、藤見さん。どうせだから上座に座りなよ」


 唐突に殺戮。


「は?」


 と聞き返す俺を無視して、


「無害ちゃんも、一緒に食べよう? 私と一緒の上座に座ってさ」


 と殺戮。


「え……?」


 と無害も戸惑ったようだ。


「今なら制圧兄様もいないし和気藹々と食事ができると思うんだよね」


 殺戮はニコニコ。


「いいのか?」


 と問うたのは俺。


「いいの……?」


 と問うたのは無害。


「別にいいじゃん。どこに誰が座ろうと地球の公転周期が変わるわけでもあるまいし」


 それを言っちゃそれまでだと思うんだが……。


「ま、そう言うのなら」


 俺は無害を引っ張って上座の方へと足を進める。しかして、


「無害は……やっぱり下座に……」


 そう卑屈になる無害。


「無害ちゃんは私と食事をとるのは嫌?」


 食指をくわえてそう問う殺戮。


「嫌じゃ……ないけど……」


「なら決まり。混沌、夕食出して」


「………………かしこまりました」


 白い長髪に漆黒の瞳、そしてメイド服というロマンを身に纏ったカオス姉妹の妹……混沌さんは一礼した。そしてキッチンに消えていき既に調理し終えている三人分の食事を持って帰ってくる。


「お……」


 と、俺は鼻孔をくすぐるいい匂いにそう呟いた。


「ふわ……」


 と無害も呟いた。


「トリュフのパスタにフォアグラのソテーね……」


 最後に殺戮がそう締めくくった。


「こんなぶっ高いもんが平然と出てくるあたりが蕪木財閥だな」


 皮肉ではなく本心で俺。トリュフにフォアグラかよ……。どうなってんだ、この首切島は。そんな俺の疑問に答えることなく、


「いただきます」


 と言って殺戮は食事を開始した。無害はと言えば……上座に座っているからかおずおずとした様子で、


「い……いただきます……」


 と呟いた。


「いただきます」


 と俺も一拍して食事にのぞんだ。一口食べて、


「っ!」


 俺は絶句した。


「うま……」


 前回も言ったがこれほどの料理を食べたのは長い人生でも数度きりだ。


「混沌は本当に料理上手だよね」


 パスタを食べながらそう褒める殺戮に、


「………………恐れ入ります殺戮様」


 と言って一礼する混沌さん。


「それで……」


 と俺は食事をしながら殺戮に問うた。


「さっき俺の部屋に来たのは何でだ?」


「ああ、そうそう。忘れてた……」


 健忘症かお前は。


「んとね。無害ちゃんと藤見さんに遊ぼうと言いにきたの」


 ナイフでフォアグラのソテーを切りながら殺戮。


「遊ぶ……?」


「生憎と外は嵐だぞ」


「いやいや、屋内で」


「またトランプか?」


「んん、テレビゲーム」


「ゲームあるのか?」


「うん。配管工がお姫様を助ける奴。最新の奴は複数人でプレイできるから一緒にやりたいなって……」


「ああ、アレ……」


 と俺。


「どこにゲームあるの……?」


 と、これは無害。


「私の執務室にあるよ。せっかくだから夕餉が終わったら一緒に遊ぼうよ」


 やはりニコニコと笑いながら殺戮。


「無害は……いいけど……藤見は……?」


「ああ、かまわんぞ。ただしそう言うサブカルっぽいモノ苦手なんだ俺。足引っ張っても大丈夫か?」


「大丈夫大丈夫。みんなでやることに意義があるんだよ」


 アグアグとパスタを咀嚼する殺戮だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る