第21話:惨劇の足音08


「ま、待て……! 土下座してやる……!」


「じゃあどうぞ?」


「ぐ……」


 と呻いてプライドの塊であるはずの蕪木制圧は床に頭を擦り付けて土下座をした。


「……すまなかった……!」


 それだけのことが相当に屈辱なのだろう。蕪木制圧の謝罪の声には溢れんばかりの怒気が内包されいた。しかして殺戮はさらにドSだった。


「ごめんなさいは?」


 そう要求する。


「……ごめんなさい……!」


 苦汁をなめるように言葉を振り絞る蕪木制圧。


「それくらいにしてやれよ蕪木殺戮。見ててこっちが痛い」


 俺がそうフォローした。


「そうだねえ。これで良しということにしよっか」


 殺戮は喜色の声で、


「もういいよ制圧兄様。十分楽しんだから」


 ケラケラと笑う。


「楽しむ……だと……!」


 愕然といった表情で蕪木制圧が言い、それから顔を怒気に染めて真っ赤にする。


「殺戮! 貴様我をピエロにするために土下座させたのか!」


 そんな問いかけに殺戮は、


「まぁありていに言えば」


 あっさりと。


「大物だなお前」


 つっこむ俺に、


「なにせ蕪木財閥のトップだからね」


 くつくつと笑って殺戮。


「それよりゲームの続きしようよ」


 殺戮はポーズ画面を解除してゲームを再開した。同時に殺戮は配管工の兄を使って俺の使っているキャラクターを奈落の底に放った。


「あ……! てめ……!」


 俺の使ってるキャラクターは一度死んで復活した後、俺の操作によって殺戮のキャラクターを殺そうと奮闘する。


「ふえ……あわ……」


 無害は狼狽えるばかりだ。


「無害ちゃんは本当に無害だねぇ。まぁそれが無害ちゃんの良いところなんだけど」


「ふえ……不器用な……だけ……」


「それがいいんだよ」


 ニッコリと笑う殺戮。


「話はまだ終わってないぞ殺戮……!」


 土下座を止めた蕪木制圧。


「これ以上何があるって言うのさ? 制圧兄様……」


「何度も言ってるだろう。蕪木財閥の全てを我によこせ。それが蕪木財閥のためだ」


「だーかーらー、それはしないって言ってるじゃん。あんまりしつこいのも考え物だよ?」


 ゲーム画面の映っているスクリーンから目を離さずそう返す殺戮。


「っていうか今はゲームに集中したいんだけど? 話はあとで聞くから今は執務室から出ていってくれない?」


「この件は後できっちり決着をつけさせてもらうぞ……!」


「私に二言はないけどね」


「ふん……!」


 と鼻息を荒くついて蕪木制圧は執務室を出ていった。バタンと強くドアを閉められた音がして、蕪木制圧の気配が遠ざかっていく。


「よくもまぁあそこまで強気に出れるもんだ」


 そう皮肉る俺に、


「まぁこれでも蕪木財閥のトップだからね」


 ケラケラと笑いながら殺戮は答えた。


「ところで蕪木殲滅のことだけどな……」


「あ、それは大丈夫」


 俺の問いの途中であっさりと殺戮。


「もう二度と殲滅兄様が無害ちゃんに危害を加えることはできないから」


「なんかしたのか?」


「まぁこれから色々と、ね」


「まぁ蕪木殺戮がそう言うんなら信じるがよ……」


「まぁかせて。無害ちゃんには指一本触れさせないから」


 ケラケラ笑いながら俺のゲームのプレイの邪魔をする殺戮。


「あ、てめ、この……!」


「なんの……この……そりゃ……!」


「仲良く……プレイしようよぅ……」


 蕪木制圧がいなくなった後、俺達はゲームに集中した。結局のところ鈍い無害が勝手に死んで、俺と殺戮が足の引っ張り合いをしているだけだったが。それでもラスボスの亀からお姫様を助けられたのは善戦した証拠ととっても良かった。

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