第16話:惨劇の足音03
それから俺と無害は読書に励んだり、一緒に昼寝をしたり、と……まぁそんな何でもない一日を過ごした。
「あ……」
夕食前だろうか。首切島の上空に暗雲がたちこめた。
「降ってきた……ね……」
そんな無害の言葉通りポツポツと雨が降り出した。それもいくばくか、最終的にバケツをひっくり返したような……と表現して差し障りのない雨となった。外に見える森が揺れているところを見ると風も相当吹き荒れているらしい。
「ますますクローズドサークルめいてきたな……」
「外界から遮断された結界……だっけ?」
「これじゃボートで島外に出るってわけにもいかんな」
それにまだこの蕪木屋敷を出るわけにはいかないのだ。俺にはやらなきゃならないことがある……。
「でも……ずっとこの屋敷で……藤見と一緒にいられるのは……嬉しい……かも……」
「そうだな」
俺はテテテと歩み寄って俺に抱きついてくる無害を抱きしめ返して頭を撫でた。
「えへへ……」
「お前は本当に可愛いな」
「可愛い……無害……?」
「ああ、可愛いぞ?」
「えへへ……じゃあ藤見……無害のこと好き……?」
「何度も言ったろうが」
「でもね……女の子は……一時の言葉じゃ……すんなり安心できないんだよ……?」
「じゃあこうするか」
俺は無害の唇に唇を重ねた。いわゆる一つのキスという奴だ。
「っ!」
瞳孔を開いて言葉を失う無害。
「…………」
俺は黙って唇を引いた。無害はポカンとしたまま冷凍保存状態だった。
「何か言えよ。気恥ずかしいだろうが」
「藤見……今……」
「キスしたな」
「ふえ……あわ……!」
無害は顔を真っ赤にして慌てだした。つくづく可愛い奴。
「キス……しちゃった……!」
「キスしたな」
「無害の……ファーストキス……!」
「俺はもう何度目か数えるのも馬鹿らしいくらいしてるけどな」
「藤見は……初めてじゃ……ないんだ……」
「まぁ人生いろいろありまして」
「でも無害とは……初めて……」
「まぁそうだな」
「あう……」
プシューと頭から湯気を出して恥ずかしがる無害。
「これで信じたか?」
「ふえ……何……を……」
「女の子は一時の言葉じゃすんなり安心できないんだと言ったのはお前だろうが」
「あ……」
「テイク2。これで信じたか?」
「あ……うん……」
真っ赤になったままカクンカクンと首を縦に振る無害。
「もし不安になったら俺に言え。何度だってキスしてやるから。なんならこの旅行が終わったら指輪でも買ってやろうか?」
「なら……無害も……藤見の分を……買う……」
「施設生活の奴が買えるのか?」
「う……多分……そう長くなく殺戮ちゃんがいなくなっちゃうから……その時に分配される遺産で……」
「なるほどね」
大したブラックジョークだこと。そんなこんなで俺達は抱き合いながら窓から時化の様子を見ていた。
「雨……何時やむか……な……?」
「さてな。まぁ一週間は休みがあるんだ。台風じゃあるまいし一日二日でどうにかなるんじゃないか」
「そうだよね……。でも……この嵐が終わって……無害が学校に戻ると……また虐められるのか……な……?」
「まぁ虐められるだけ虐められておけ。可能な限り助けるし慰めもするがかゆいところに手が届かないのも事実だしな。それでも心が折れそうになったら俺を呼べ。抱きしめてやるから。キスしてやるから。なんなら抱いてやってもいいぞ?」
そんな俺の言葉に、
「ふえ……あわ……」
と言って茹蛸みたいに真っ赤になる無害。可愛い可愛い。むやみやたらと照れる無害を見つめながら夢心地になっているところに、コンコンとノックの音がする。
「無害様、藤見様、いらっしゃるでしょうか?」
これは混乱さんの声だ。
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