第15話:惨劇の足音02


「混沌……!」


「………………そこまでです制圧様。発端は制圧様にございます。勝手な言い分で無害様のお客様に害をなそうとすればそれなりの処置をとらせてもらいます」


「ふん! いいのか? 殺戮が死ねば蕪木財閥を牽引するのはこの我だぞ? 今その切っ先を引けばまだ情状酌量の余地はあるぞ?」


「………………当方ら有田姉妹は殺戮様及び殺戮様亡き後の無害様にお仕えすると決めております。無論だからと言って制圧様に反抗できる身分ではありませんが制圧様が止まらないとするならば仕方ありませんね」


 全くの無表情でそう威圧する混沌さん。混乱さんもまた無害を蕪木制圧から隠すように立った。当の無害はといえば、


「あ……う……藤見……混沌さん……」


 そんな感じでわたわたしていた。蕪木制圧を挑発した俺と蕪木制圧を牽制した混沌さんに思うところがあるのだろう。俺はそんな無害の頭を撫でてやる。


「大丈夫だぞ。そんなに心配するな」


「ふえ……でも……」


「誰にもお前を排斥させない。誰にもお前を唾棄させない。喧嘩を売ってくるなら買うまでだ。タダだしな」


 無害を安心させてやる俺。そして蕪木制圧はというと混乱さんの背後にいる無害を侮蔑の視線で睨みつけた。


「ふん。さすがは雌犬の子というわけか。馬の骨を籠絡するくらい容易いのだな」


 次の瞬間、


「ふ……!」


 俺は呼気を一つ放つと、前進と跳躍を同時に行い蕪木制圧の頭部に空中後ろ回し蹴りを放っていた。俺の踵に乗った体重の加速度が、蕪木制圧の頭部に深刻な衝撃を与える。


「が……!」


 と息を逆流させて蕪木制圧が床に倒れた。そして、


「あ……」


 と俺は自分が「やってしまった」ことを悟る。


「しまった……」


 よりによって蕪木財閥のナンバー2に暴行を働いてしまった。蕪木制圧は床に倒れたまま痙攣していた。


「……っ……っ……」


 意識がないのは幸いか。


「藤見……駄目だよ……制圧様を……害しちゃ……」


「いや、お前を貶められたと思った瞬間、体が勝手に……」


「………………過ぎたことを言ってもしょうがありません。とりあえず姉さん……制圧様をお願いします」


「はいはい。制圧様の部屋に運んでおきますね」


 でカオス姉妹の姉こと混乱さんは意識を失った蕪木制圧を背負ってダイニングを出ていった。カオス姉妹の妹こと混沌さんは包丁をクルクルと器用に回すとメイド服の腰の辺りにマウントした。そして言う。


「………………大した技術をお持ちですね藤見様」


「まぁ俺の人生にも色々あってですね。それより蕪木制圧が起きたら言っておいてください。申し訳ありません……と」


「………………確かに承りました」


 混沌さんは一礼する。そこに、


「ふわあ……おはよう……」


 とあくびと朝の挨拶を並行しながら殺戮がダイニングに顔を出した。


「混沌、朝食の用意して」


「………………了解しました殺戮様」


 キッチンに消える混沌さん。殺戮は縦に長いダイニングテーブルの上座に着くとこっちに質問を振ってきた。


「ところでさっき気絶した制圧兄様を混乱が背負っていたのは何なの?」


「かくかくしかじか」


「なるほど。そりゃ制圧兄様が悪いわね。後で私がとりなしておいてあげる」


「面倒かけて申し訳ない」


 頭を下げる俺。


「そんな……。謝られることじゃないよ。聞く限り悪いのは制圧兄様なんだし」


「それでもまぁ馬の骨に後れをとったとあれば蕪木の恥ではないのか?」


「そんなの……蕪木財閥そのものが力を持ってるってだけであって制圧兄様が偉いってわけじゃないんだし……」


「そう言ってもらえると助かります」


 もう一度頭を下げる俺。


「それより朝食にしようよ。あれ? 殲滅兄様は?」


「………………殲滅様は御自身の部屋で朝食をとるそうです」


 また幻影のように現れた混沌さんが殺戮の疑問に答える。


「そっちも何かあったの?」


「………………かくかくしかじか」


「そんなことがあったの!」


「………………遺憾ながら」


「それで? 無害ちゃんは無事なの?」


「………………大丈夫です。ただし殺戮様に関しては少しやりすぎてしまいまして回復まで一週間はかかるでしょうが……」


「まぁそれは自業自得だからいいけど。そっか……殲滅兄様にしてみれば無害ちゃんは抱きこんだ方が得策だよね。それで無謀な行為に……」


「………………そのようで」


 一礼してキッチンへと雲隠れする混沌さん。


「無害ちゃん」


「ふえ……? なんでしょう……殺戮ちゃん……」


「なるたけ藤見さんの傍を離れないようにね? 藤見さんの傍にいればとりあえずは安全だから……」


「うん……わかった……」


「元より無害を離す気なんてありませんよ」


「いいなぁラブラブで……」


 殺戮はそう言って朝食に手をつけた。

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