第5話:首切島03


 小島のソレとはいえ部屋数が三十はある屋敷だ。全てを把握するには案内人が必要ということで俺は庭師の仕事をしている有田混乱さんに声をかけて屋敷のナビゲートを頼んだ。トイレ、風呂、ダイニング、キッチン、蕪木制圧に蕪木殲滅に蕪木殺戮の部屋の場所。それ以外は空き部屋。そして殺戮用に誂えられた執務室が三階の三割をぶちぬいて作られているらしい。


「殺戮様の執務室だけが鍵がつけられています」


 説明してくれる混乱さんに、


「つまりそれ以外の部屋はプライバシーなんて有って無きが如しってことか……」


「まぁ……そうですね」


 アハハと笑う混乱さん。


「とはいえ一応ノックはしますので藤見様が部屋で何をしていましょうと問題ないかと思われます」


「俺が自慰行為をしていても同じこと言えるか」


「大丈夫ですよ。生理現象に何かしらの感想を持つことはありませんから」


「参った。混乱さんの方が一枚上手だ」


「そうですか? 光栄に思っていいのでしょうか?」


「さてな」


 俺はこの会話を打ち切ると混乱さんを連れて無害の部屋へと向かった。無害の部屋に着くと……とは言っても俺の部屋の隣だから位置くらいは理解しているのだが……ノックをして無害を呼んだ。


「無害? いるか?」


「藤見……?」


 疑問形で俺を呼ぶ声が聞こえて、ガチャリと無害の部屋の扉が開く。


「ふえ……藤見だ……。どうしたの?」


「これから混乱さんに庭を案内してもらうつもりなんだが一緒に来ないか?」


「庭を……御散歩するの……?」


「まぁそういうことだな。駄目か?」


「ううん……。嬉しい……」


 うっすらと無害は笑う。


「じゃ、行くか。混乱さん、案内お願いします」


 混乱さんは白い髪を揺らしながら、


「かしこまりました」


 と深く一礼すると、俺と無害を連れて庭の散歩をエスコートしてくれた。


「来た時も思ったが随分と豪奢な庭だな……」


 欧州の貴族の庭にでも迷い込んだかのような印象を受ける。周囲には島を取り囲むように木が生えており、何やら秘密基地に入ったかのような錯覚さえ受ける。屋敷の存在はくどいが、ここが島じゃなければきっと周りを威圧する豪奢な屋敷と庭ができているはずだ。


「この庭の管理は混乱さんが?」


「はいな。料理が混沌ちゃん。庭の仕事と殺戮様の補佐が私。屋敷内の清掃を二人で担当しております」


「たった二人のメイドでこの大きな屋敷を切り盛りしてるなんてすごいですね」


「慣れですよ」


「それでも……ですよ」


「あはは、褒められると照れちゃいますね……」


 頬をポリポリと掻きながら混乱さん。


「でも……本当にすごいです……。混乱さんの調整した庭は……豪奢です……」


 感動したように無害。


「無害様まで……。例えお世辞でもありがたき御言の葉です……」


「本音ですよ……?」


「ならば尚更です」


 鼻の頭を掻きながら照れる混乱さん。


 そうやって蕪木屋敷の探検は終わった。

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