02 ここどこだ!?
クッションを抱きしめ、ジタバタと悶えてると、足の指に何か硬いものが当たった。床に物を置いておくなんて一体誰だ? 間違いなく私だ。一人納得しながら、その何かを拾い上げる。
「ああこれかぁ」
ソファの前に落ちていたのは、ここのところハマっている女性向け恋愛ゲーム、いわゆる乙ゲー『薔薇百合の学園』のケースだ。表には薔薇と百合に囲まれた美男美女が並んでいるが、裏には海が見れば真っ赤になって倒れそうなイラストが描かれている。
実はこのゲーム、極普通の乙ゲーを装った、BL・GLを題材とした
最初にプレイする時はノーマルモード、女子生徒として男の攻略対象を落としていくゲームなのだが、二週目からは赤いモードと白いモードを選ぶことができる。そう、つまりは薔薇と百合だ。
私も薔薇モードをプレイするために、鳥肌を立てながらでもノーマルモードをクリアした。この作品、この界隈では非常に評判が良かったのだ。そこは口コミ通り、最ッ高に萌えることができた。
「──もし、この世界が『薔薇学』だったらなぁ」
ぽつり、そんなことを呟いてしまった。
もし私たちがこの世界にいたなら、海は間違いなくみんなから愛されるだろうし、私は好きなだけそれを眺めてニヤニヤできる。ありえない話だけど、もしそうなったら、絶対に楽しいだろうなぁ。
「いつもつまらない顔して、気持ち悪いのよ!」
「お前こそいつもいつもくだらない我儘ばかり、家紋の恥だとなぜ気づかない!」
──ん? 何このセリフ。どっかで聞いたことある? っていうか、今喋ってたのって、もしかして、私!?
目の前にいる人物を改めて認識する。銀の髪に青い瞳を持った、とびきりの美少年が立っている。それも、今怒鳴ったところとは思えないような、惚けた顔をして。
周りには遠巻きにこちらを眺めるメイド服と執事服の知らない人たち。そして下には赤い高級そうな絨毯が。
ちらりと視線を下に落とすと、ピンク色の布が目に入った。ふんわりとした形状のそれは、私の足元に付いていて……。
え、これ、私の着てる服? もしかしてドレスってやつ?
そのまま自分の体をなぞるように視線を動かせば、肩には綺麗な銀髪がかかっていた。そう、目の前の少年と全く同じ色の髪が。
「……ここ、どこだよ」
掠れた声で目の前の少年が呟いた。それはこっちが聞きたいっつーの。
じろりと睨みつつ、もう一度少年の姿を観察する。
サラサラした銀の髪に、水晶のように透き通った青の瞳。顔立ちは幼いものの知性が滲み出ていて、将来相当綺麗になるだろうと思われる整いよう。
ああ、この子あれだ。薔薇学のミシェエルだ。
ミシェエル・サンデュリル。『薔薇百合の学園』に出てくる攻略対象の一人だ。公爵家の次期当主で、悪役令嬢の双子の兄。二つ名は『氷の貴公子』。クールで紳士なイケメンだからだ。そのまんま。
そしてその双子の妹がエリウェーラ・サンデュリル。薔薇学の悪役令嬢で、ヒロインを虐めるわ同性愛を批判するわとプレイヤーから全力で嫌われているキャラである。どのエンドでも死ぬか生涯投獄になる。
──待て。この少年がミシェエルなら、彼と言い争っていた私は誰だ?
っま、まさか。私っ、エリウェーラになってるーーーー!!?
頭の中がパニックを起こした私は、目の前の少年を勢いよく振り返る。相手は大きく肩を揺らし、目を泳がせた後ギッと睨み返してきた。
……この癖、まさか。
「.......くそっ、ぜってェ宙の仕業だな」
あの野郎、そう小さく呟いたミシェエルの声が聞こえた。顔を苦々しく歪め、誰もいない場所を睨みつけている。
おい、今宙って言ったな? 言ったよな? ってことは、やっぱり!
「海ぃぃぃぃぃぃ!!!??」
「おまっ、宙ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!??」
この時私たちは、一生で一番だと思われる音量で絶叫した。
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