最終話 『おんざ・ぱるむ!』

(…悪魔化かもう始まってやがる。どんどん力が高まっていくのを感じる…このままだと倒すことはまず不可能!悠長にしている時間はない!ここで仕留める!)

「『完成・純紅蓮パーフェクト・レッド』ッッッ!!!」

 炎と化した平は、米沢を焼き尽くそうとする。

 しかし、迫りくる炎も彼の前では止まっているも同然だった。

 米沢は超高速で動き、平の背後に回り込む。

(無駄だ。そもそも俺とお前じゃ地力が違う…)

「終わりだ」

 力が、平に発動した。




「…?」

 平に変化はない。

(どうなっている…まさか!)

 慌てて空気弾を放つも、一瞬、平の方が早かった。

 炎が再び、米沢を襲う。

「ぐっ…お前…」

「俺の契術は能力無効化…ありとあらゆる能力を無効にできる。ふぅ…これが決まってりゃ負け確だったぜ。」

(チッ…!空気弾はダメージにはなるが…ヤツの性質上、決定打にはならない。利用できそうなものは近くにもうない。パチンコ玉も炎で溶け落ちていった。俺の力が安定するのを待つのも遅い。しばらくかかりそうだし、その間にタイムリミットを迎えちまったら元も子もねぇ。それなら、俺にできることは一つ…)

 米沢は空気弾を全身に纏う。

(奴の能力はもはや、ありとあらゆる力を操る能力になったのか…まだ100%は使えねぇ内に叩く!)

「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「だぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 最後の闘いが、始まった。

 形式は─殴り合い。

 最終決戦にしては、あまりにも無骨だ。

 米沢は力を放ち、平はそれを炎の威力で撃ち返す。

 それをただ、相手がくたばるまで繰り返す。

「平ァァァ!!!!」

 バンッ!

「米沢ァァァ!!!!」

 ボンッ!

 全ての戦いが、四つの拳に集約されていた。

「平ァァァァァァ!!!!」

「米沢ァァァァァァ!!!!」

 ドォンッッッ!!!

 互いの拳が、頬に刺さる。




 ─片方が、倒れ込んだ。








「ここ…は?」

 目を覚ますと、そこは白い部屋だった。

(俺は…確か平と戦って…そして平が倒れて…ははっ)

「俺の勝ちだ」

「はいはーい!お疲れ様でしたッス!」

 そこにやってきたのは、アスタロトだ。

「お前はここに来ると思ってたぜぇ。…祝ってくれよ。今日は俺のハッピーバースデーだからなぁ!ははは!俺はやったんだ!俺は成し遂げた!俺は…」

「負けッスよ」

「え?」

 米沢の顔が、一気に青ざめる。

「お、おい…冗談にしては肝が冷えるぞ?現に平は倒れて…」

 その瞬間、米沢は思い出す。




 バタッ

(はぁ…はぁ…かなりしぶとかったが…トドメはさせたのか…?完成・純紅蓮は解除できたが…ちゃんと確認しねぇと…)

 米沢がトドメに頭を踏み潰そうとした、その時だった。

 足が、急に熱くなる。

 平の右手が、右足を掴んでいた。

「俺は…まだ…死ねねぇ…俺は…」

(こいつ、どこまで…!)

 蹴り飛ばそうとした、その時だった。

 彼の体が、急激に熱を感じる。

(急に熱くなってきている…どういうことだ…!?)

「傷口から…炎を入れた…テメェの中から燃え尽きろ」

(まずい、焼け死ぬ前にやつを殺さないと!)

 平は再び、『完成・純紅蓮』を発動させる。

「とっとと俺を殺してぇのかぁ?同じ気分だぜおるぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」








「ふざけるな…俺は負けてない…俺が負けるはずがないんだ…」

「現実受け入れましょうよ、米沢ちゃんは、どう足掻こうと焼け死んじゃったンスよ?」

「嘘だ…嘘だろ…アスタロト…」

「さて、負けた米沢ちゃんの処遇なンスけど…」

「お、おいアスタロト!俺にもう一度チャンスをくれ!次こそ期待通りの結果を出す!実際もう少しで勝てたんだ!あと一人だったんだ!だから…」

「何言ってンスか?




 期待になら答えてくれたじゃないスか。」

「は?」

 米沢は自らの理解を疑う。

 ようやく、気づいた。

 目の前にいるのが悪意の塊であることに。

「いやぁ、素晴らしいッスよ?米沢ちゃんはちゃんと強くて、頑張り屋さんで、希望に満ち溢れていて…でも何より良かったのが、最後は無様に負けてくれそうって所ッスね。全然そんな人材いないンスよ、サタンちゃんは最後以外は満たしてたンスけどね…」

「あっ…あっ…!」

 アスタロトの目が、ドス黒く染まる。

 限界まで口角を上げて、米沢の目の前で嗤う。

「そう、それッスよ!絶望する米沢ちゃんは一番カワイイッスよ!」

「…け…な…」

「大丈夫ッスよ。米沢ちゃんは消えないッス。アスタロトは米沢ちゃんのことが大好きッスから。ずーっと、飼ってあげるッスよ?」

「テメェ俺を最初からr…」

「はい!」

 殴りかかられるも、アスタロトは簡単に彼を抑えて、地面に組み伏せる。

「ダメッスよ、ちゃんとへは礼を尽くさないと。ほら、これからずっと媚びて生きていくンスからちゃんとしないと。」

「殺…」

「啼けよ」

「…」

 米沢は、涙をこらえている。

(耐えてくれるなら更に好都合ッスね。心が折れるまでと、折れてから、二度おいしいとはこのことッス!




 永遠に、可愛がってあげるッスよ。)









「…おめでとう。貴様の理想の世界が、ここから始まるのだ。」

「願いは変わんねぇ…が、眷属共は?」

「安心しろ、新世界と共に復活する…貴様が進む道は地獄の道だ。そして、世界を混沌の渦に呑み込む道だ。それでも、構わないのか?」

「…あぁ」

 平は、ゴクリと唾を呑み込む。

(覚悟はもう、決まっている。)

 新世界へ、彼女は進んでいく。


 完

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