第34話 『たいら・あんがー!』

(ずっと、漫画とか映画の主人公に憧れていた。様々な危機がやってきて、それを巧みな技で乗り越えていく。私も、そんな人生を送るチャンスが来た。…けど、いざ蓋を開けてみると見方の皆は私より全然凄い。いつの間にか、足を引っ張っていないかを気にするようになってきた。私は本当は…)

 圧倒的な火力に、押し潰されていく。

 遠くでが聴こえたが、気にしている場合ではない。

(最低限、米沢さん達が迎えに来るまで間に合うかどうか…もってあと1分だよね。これムリだよね。)

 一方平は、まだまだ余力がありそうだ。

(私が…何とかするしかない!やれるかどうかじゃない、やってみせる!)

 龍崎の目が蒼く輝く。

 その時、龍崎の頭に電流が走る。

(…もしかして。)

 感じたままに能力を使う。

(これなら、行けるかも!)




(…そろそろか。正直詰み寸前って言いたい所だが、あの女は絶対なにか仕掛けてくるに違いない。炎で周りを覆って逃げ場は塞いでる。ワンチャン狙いで炎の中突っ切って来るのはありえるか…?まぁそんなことしても焼死体になる方が先だろうがな。)

 …遂に、氷が溶けた。

 案の定、突っ切ってくる姿がうっすらと見える。

(狙いは正面突破か!けどそれならなぁ…)

 炎の嵐がだんだん小さくなる。

 その分、炎の火力が上がっていく。

(念には念を…だ。これで奴も…おい待て)

 影がたじろぐ姿さえ、平には見えなかった。

 龍崎が姿をとうとう現す。

 ─その体に、火傷は全くなかった。

(どういうことだよ…!アイツ氷使いじゃなかったのか!?)

(『雪化粧チルアーマー』。やっと気づいたよ。私の契術の本質は、冷気を操る能力。できなかったのは、気づかなかったからなんだね。冷気だけなら、消費する体力も抑えられる。冷気だけなら、十分相手の炎を防げる!)

 平も遅れてその事実に気づく。

 自分の前が、ヒンヤリと冷たかったからだ。

「悪いけど、ここまで、だね…ありがとう。」

 氷の刃が、平に向けて放たれる─








 平魅々には、大企業の専務をしていた父親と、しっかり者の主婦の母親がいた。

 彼女は育ちの良さを威張り散らすことはしなかったが、自分の両親を本当に誇りに思っていた。

 だが5歳の誕生日の翌日に突然、父が逮捕された。

 彼には殺人容疑がかかっていたのだ。

 そこから平の人生は大きく変わった。

 いじめっ子達を喧嘩で黙らせてから帰ってくると、家に落書きがされていた。

『人殺し』

『出ていけ』

 8歳で母が首を吊り、9歳で父が首を吊らされた。

 そして15歳。

 父は無実だった。

 平はその頃になると、自らの舎弟を引き連れて、カツアゲなどで生計を立てていた。

 引取先でも蛇蝎だかつの如く嫌われていたからだ。

 17歳、サタンと出会う。

「これは興味本位だが、貴様の理想の世界を聞かせてくれないか?」

「…その前に、だ。親父はどうして死刑になったと思う?当ててみろよ。」

「わからん、恐喝紛いの取り調べで自白してしまった…と言うのがよくある話だが。」

「いぃや、違うね。親父は最後まで無実を主張していた。けどその声は聞き入れられなかった…。冤罪でサツの評判が落ちるのを恐れていたからだ。しょうもない理由だろ?」

 平は机の写真立てを取ってサタンに渡す。

 写真には、平を中心とした不良集団のメンバーが写っていた。

「こいつらはみんな、社会から蹴落とされた奴らだ。例えば右端のピアス野郎…橘って言うんだが、勉強を強いる両親から逃げてきたんだ。酷い時は家に閉じ込められていたらしい。」

「…そういうことか。」

「あぁ、俺はこの世界の理不尽が嫌いだ。理不尽を産み出す世界が嫌いだ。…けど、理不尽を潰すには、理不尽しかねぇ。俺は王になる。この世界を、永遠に統治する。どれだけ時間がかかったとしても、誰も見捨てられない世界に、導いてみせる。」

「それは簡単なことではないぞ。」

「重々承知の上だ。けど、俺は正義感や義憤心でこんなことをやってんじゃねぇ。これは俺の、世界への復讐だ。どんな形で為してもいい。俺が相応ふさわしくないならば、他の奴らに王位を譲ってもそれはそれで構わないさ。」

「…随分難儀な性分だな。」








 氷の刃は、平に触れる前に溶け落ちていった。

「…え?」

「悪いな、お前が冷気で身体を覆ったなら…」

 平の体が奥底から、紅く燃え盛っている。

「『純紅蓮レッド』。俺は炎そのものだ。」

 一歩、こちらに踏み出す。

「この手を使わせるとは思わなかったぜ。褒美だ。」

「させない!このまま凍らせ…」

 ドンッ!

 平のパンチが龍崎の頭に炸裂する。

 その瞬間、龍崎の体がドロドロに溶け落ちていく。

「…案外グロいもんだな。」

 そのまま、去っていった。








「で、その後は何事もなく5日目が終了したと。」

 ベルフェゴールはサタンの話を楽しそうに聞いていた。

「あぁ。此方の魔王は中々悪くないだろう?」

「えぇ。ただテンションが時折変になるのが玉にきずです。」

「それに関しては否定しない。それにしても…もう9人まで減ったか。」

「果たして勝つのはどの陣営なのでしょうか…。明日はエリアが更に半分になる。どれだけ波乱が起きるのか楽しみですね。」

 残り9人

 生存者

 憤怒陣営

  平魅々

 憂鬱陣営

  米沢乱流

  宮藤愛蘭

 強欲陣営

  合理帝

 暴食陣営

  冥崎誠一郎

  保中慎一(禍供犠早贄)

 虚飾陣営

  卯月太陽

  車田大和

 色欲陣営

  十文字莉杏

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