第21話 『すぱいだーず・こくーん!』

 犬神の位置がようやく安定する。

(犬神は今満身創痍…負担をかける訳にはいかない。なら俺様の攻撃方法はただ一つ!)

 ガンッ!ズドォォォォンッ!

 珈砕は手当り次第に、高いビルやマンションを蹴飛ばしていく。




「うわぁぁぁぁ!ビルが落ちてくるぅぅぅぅぅっ!!」

 音無の叫び声が木霊こだまする。

(壁を造っても…ダメだ防ぎきれない!)

「横に逃げよう!」

 三人は走る、走る、走る、走る。

 ドォォォン!

「…間一髪」

「幸運にもビルの端の方だから助かったが…これじゃあ命がいくつあっても足りないぞ。しかも、逃げたところで…。」

「なら、やるしかないでしょ。」

「うん、渋谷の言う通りだね。そして朗報。…が固まった。」

 合理は小型の戦闘機を三機創り上げる。

「す、すげぇ…!でもこれ、どうやって操縦すんだ?」

「操縦は脳内で思い描いた通りにできる。とにかく機動力重視で造ったよ。」

「…『創造』の域を超えてない?」

「ちょくちょく毎日使ってたら創れるものが増えてきたんだよね。契術や加護も成長するのかな、やっぱり。まぁそれより、早く乗ろうよ。」

「そうね。」

 三人が戦闘機に乗り込む。

 黒い鳥が、三羽、巨人へと向かって行った。




「あっぶねぇ…」

「そうですね、正直めちゃくちゃキュンと来ました!宮藤さんは大丈夫なんでしょうか…?」

「反応は消えてない。無事だろうよ。」

 米沢と龍崎は飛び、巨人の背後に回り込む。

「龍崎、Go!」

「はいっ!」

 巨大な…といっても相対的にはちっぽけだが、氷の槍が巨人の首に突き刺さる。

「ぐっ…あっ…痛ぇぞオルァァァっ!」

 傷はどうやら浅いようだ。

「おいおい、巨人はうなじを攻撃すれば死ぬんじゃないのか?」

 怒りの鉄槌が二人に迫る。

 大きさとは裏腹に、かなり素早い。

 これをギリギリ避ける。

 二撃目も、米沢はスレスレで躱す。

(米沢さんが力をかけられるのは一つまで。しかも飛ぶには細かく方向を入れ替えないといけない。体への負担も考えると正直飛ぶので精一杯…。けど、私じゃ火力が…)

「そこの飛んでいる人ー!僕は合理帝って言います!共闘しましょう!」

 振り向くと、三機の戦闘機が巨人に向かっていた。

「…共闘か、悪くないな」

「うん…」




 混乱パニック渋滞ジャムに陥る道路を、一台の車が闊歩していた。

「ここまで攻撃を回避して来れましたのは大きいですよ!桐生さんの契術は本当に凄いです!」

「でしょでしょ?おじさん凄いの。」

(…こいつ等有能すぎるだろ。俺何もできてねぇぞ。)

 実際、ジェシカと桐生は家事もきっちりこなせていた。

 武丸はどれも悲惨だった。

「あ、巨人向こう行くからこのまま後ろから近づけば安全だよん。」

「えぇ、急な方向転換には気をつけ…」

「八時の方向、来る!」

 突如桐生が叫ぶ。

 ─次の瞬間、車の両扉が開く。

 桐生は助手席の武丸を突き飛ばす。

 ジェシカも声に反応して、二時の方向から脱出した。

 その直後、電撃が車を襲う。

「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 武丸を庇ったせいで逃げ遅れた桐生は、電撃に焼かれて死体となった。

「お、おっさん!」

「神の敵ィ…そこですか。」

 二人は次に、凄まじいスピードで周囲が糸に囲まれていくことに気づく。

 糸を張っていたのは倭島、そしてお姫様抱っこされてる十文字もいた。

「ねぇねぇ、降参してくれないかな?怖いのは見た目で、これに当たったら凄く気持ちよくなれるよ!」

「死んだら元も子もねぇだろ!」

「十文字さん、どうしますか?」

「遠距離から電撃ぶっ放して終わ…避けて!」

 ズドドドドド!

 倭島の反応は早かった。

 ジェシカが放った無数の光線を、糸を使って巧みに回避していく。

「人を抱えてるのになんてスピードを!?」

「若干のタメがあるといえ、遠距離攻撃持ってんのか…こりゃちとめんどいな。」

「…なら、名案があります。」

「言ってみて」

 倭島達は、二人から逃げていく。

「逃がすか!ここはまだ射程圏内だぜ!」

 武丸はブラックホールを創る。

 対象は糸使いの方だ。

 倭島は急いで十文字を降ろすと、糸で自らを固定する。

「灯火ちゃん!」

「逃げて!」

 ズキュゥゥゥン!

 再び、ジェシカが光線を放つ。

(ここで自分が死んだら糸はおそらく解除される。そしたら十文字さんが追いつかれかねない!)

「私はまだ…死なない!」

 倭島は糸で即席の壁を造る。

 光線が繭に炸裂する。

 ─手に少し火傷は負ったものの、それだけで済んでいた。

 倭島は急いで繭を再生成する。

「…耐久勝負を仕掛けてるのですか。生意気な!」

 そこからは、ひたすら我慢比べが続く。

 火傷から分かるように、光線の破壊力は繭の強度をほんの少し上回っていた。

(十文字さん…逃げ切れたかな?よかった…)




 一方十文字は、回り込んでジェシカに近づいていた。

(おそらく電撃の探知は始末した人の契術…なら不意討ちで光線使いを殺れば勝てる!灯火ちゃんを見捨てるわけには行かないしね!さて、ここを曲がれば灯火ちゃんが…)

 ビジュュューッン!

 ビルの陰に隠れて、十文字は電撃を放つ。

 その時、一つ前の通りから女が現れる。

(やばっ…!ちょ、どいて!)

 ─十文字の心配は杞憂だった。

 女、いや宮藤はこれを回避する。

「うわぁぁぁぁっ!」

 武丸が電撃からジェシカを庇って倒れる。

 ブラックホールが、消えた。

「武丸さん!」

「き、きもちい〜」

「邪悪に心を乱されてはなりません!…はっ!」

 倭島は十文字のいる方向に大回りで移動する。

 手と足は、焼け爛れていた。

 ブラックホールの効果範囲から抜け出すことが、最優先事項だった。

「おー危ない危ない、って右も左もバチバチやり合っとるやんけ!」

 宮藤は来た道を戻ろうとするが、そこに倭島が到着する。

「十文字さん!」

「灯火ちゃん!生きててよかった!」

(どないしよ、三方固められとるやんけ…、ここから抜け出すことが兎にも角にも急務。けどどっちも逃してくれるかは微妙。なら…)

 宮藤は冷や汗をかきながらもニヤリと笑う。

「あんたら、手を組もうや。」



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