第20話 『れいど・ばとる!』

「くっ…これではらちが明かないな…!」

 タッグマッチは泥仕合と化していた。

 車田を乗せた卯月は十文字の電撃も、倭島の糸もすり抜けられる。

 かと言って二人が有利なわけではない。

 卯月達も攻めるタイミングを見失っていた。

 下手に攻めて二重攻撃を喰らえば元も子もないからだ。

 なので互いに隙をうかがっていたが、一向に事態は進展しない。

「いっその事お互い見逃すように頼もうかな?余計な消耗はしたくないし…」

 十文字が倭島にボソッと囁く。

「いいと思う。」

「オッケー、じゃあ…」

 グシッ、ドゴオオオオオオオオ!

 ビルが、崩れていく。

 地面が、揺れる。

 ビルを突き破った巨人は、20m程の大きさになっていた。

 それと同時に車田は目撃した。

 さっきの四人…一人減って三人が猛スピードで此方こちらに飛んでくる。

「おい、なんか来てるぞ!」

 三人は二陣営の間で急停止する。

「いったた…緊急回避はいつかやると覚悟してたとはいえなぁ…体の彼方此方あちこちが痛いわ…。」

「そうですか?学校生活では結構日常茶飯事でしたが…」

「あんた学校で一体何があったんや?」

「まぁまぁ聞いてやるな、それよりそこの4人に聞くが…、あの巨人どうするよ?」








 この議題は彼らだけでなく、(嫉妬陣営以外の)全陣営の悩みのタネとなった。

 巨人から逃げた場合、巨人に殺されるリスクは無論減る。

 だがしかし、問題は巨人化はおそらく可逆的であることだ。

 眠気が来たり怪我を負ったりなど都合が悪くなれば巨人化を解除して、朝が来たり怪我が治ったりすれば元に戻る。

 はっきり言って適当にやるだけでも強力な契術だ。

「神の敵がノコノコ姿を現してくれましたね…」

「いやあんなの相手にするの怖いっすよ!討伐するんすか?」

「神は言いました、汝の敵を鏖殺おうさつしなさいと。」

「いや言ってな…」

「おじさんはかわい子ちゃんについていくぜ?お前さんは嫌なら…」

「あー待て!俺も行く!俺も行くよー!」




「冥崎さん、こいつどうスルメイカ?」

「巨人は無視でいいだろう。他陣営に任せる。」

「まぁモブみたいに踏み潰されて修了式って可能性すらありますもんね。あ、でも…他の人たちも巨人に寄ってくるかもしれませんよ?」

「巨人はと言うておろう。近づきすぎず、離れすぎずだ。」

「醤油うことね、りょーかいっ!」




「こんなのぶっ潰す一択だろーが、合理呼んでパーティーとでも洒落込むか?」

「拒否。巨人、ほぼ交戦中。他力本願推奨。」

「いいだろ?な?稲葉?」

「拒否」

「…しゃぁねぇ、じゃあここは一旦我慢すっか…」




「な、何故だ…あれ程巨大な人間が何故いるのだ…」

「音無落ち着け。…しかし位置が悪い。ここだと巨人の一挙一投足に巻き込まれかねない。闘争か逃走、選ぶは一つ。」

「…戦おう。民間人にも被害は出るだろうし、見過ごすわけには行かない。それに相手の方が速いから逃げ切れるとは思えない。」

「そうだな!行くか!」




「…くっ、珈砕…か。私は生きているのか。」

「その通りだ犬神、壁を手に突き刺してくれ!」

「…あぁ」

 犬神は左手の中に自分を囲んで四方に壁を突き刺して、体を固定する。

「ぐっ…」

「大丈夫…なのか?」

「大丈夫だ!俺様は戦うぞ!」

(…私が死ねば珈砕も死ぬ。だから私のために戦うのは当然。…しかし、何故こんなにも嬉しそうにしている…?わからない、わからないぞ…)




「で、どうする?お前ら…二人も含んでるぞ。」

「パス」

 即答したのは十文字だ。

「うーん、ぶっちゃけ残り二人だし余裕ないんだよね…、私達そこまで強いってわけでもないし…。灯火ちゃんはどう?」

「…十文字さんの言うことは絶対。」

「だってよ!すまん!じゃあな!」

「あ、待って!」

 龍崎の制止を振り切って、二人は電柱と電柱を糸を通して伝っていく。

「…正直連戦はキツい」

「そこの女が行かないなら私達もキャンセル願おうか。」

 卯月、車田も歩き去っていった。

「…どうすんだぁ?二陣営はレイドバトルには参加しない。他に誰か来るかもわからない。…やるか?」

「当たり前やろ」

「うん!もちろん!」

 米沢は満足そうに微笑む。

「よし、それでこそ俺の仲間だ!だが…俺の契術と加護についてもう一度説明する。俺の契術は爆発。触れた物を爆発させることができるもの。…まぁ加護が強すぎて半分死んでるけどな。加護の方は決まった方向に力をかけることができるもの。だからこれを応用して空中戦を挑むってのがプランなんだが…」

「…機動力も考えると、一人が限界ってことか。」

「そゆこと。正直対人では宮藤の方がいいんだが、巨大だからアレが通じるかわからねぇ。よって、龍崎を連れていきたいと思う。」

 龍崎は目を見開く。

「え、私ですか!?」

「不服…って訳じゃなさそうだなぁ。」

「さっきの戦闘、宮藤さんの方が活躍してましたから…」

 少しうつむく。

「そうだな、でも今はお前が欲しい」

「自信がなけりゃ楽しめるものも楽しめへんで、行ったれ行ったれ!ほなテキトーに隠れとくわ。」

「…わかりました!」

「おし、時間もねぇ。そろそろ珈砕が俺達を捕捉するだろう。他の巨人討伐に来る奴らや、漁夫の利を狙いに来る奴らもいる。…間違いなく、乱戦が始まるはずだ。それじゃあ、解散!」

「おう!」

「…うん!」

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