第7話 『ぶるー・さんだー!』
「朝だよー!灯火ちゃんー!」
その声で倭島灯火は目を覚ます。
「…おはよう」
乱れたシャツのボタンを留め直してベッドから出る。
既にみんな、起きてるみたいだ。
眠い目を擦ると、そこには十文字がいた。
「豪ちゃんが朝ご飯作ってくれたぜ!みんなで食べよ!」
リビングに出るとエプロン姿のスキンヘッドがそこにいた。
「おら、堀江豪シェフ特製の和食セットだ!たんと食いな!」
「いただきます。」
倭島が味噌汁を飲む。
久しぶりのマトモな食事に、倭島は感動すら覚えた。
呰見は昨日の怯えっぷりが嘘みたいに元気よく飯を食っていた。
「およ、アザミちゃん。豪ちゃんは怖くないの?」
「は、はい!だって昨夜のあの姿を見─」
「やめろぉぉぉぉ!!!!!」
「いやー、みんな仲良くて何よりだ!あ、ご飯おかわり!」
「…俺だけ食べられないし引っ込んどこ」
アスモデウスがしょんぼりしながら消えていく。
「…十文字さん、この後どうするの?」
「そうだね~。安全を考えたら全員で行動なんだけど、時間制限もあるし何よりエリアはそこそこ広いんだよね。だから別行動にしようかなぁって。」
「で、でも…私の契術は一人だとなんの役にも立ちませんよ…?」
「2-2で分かれればいいだろ?それに十文字の加護は周囲を巻き込みかねない。」
「…なら私が十文字さんと組む。」
「え、えっと…でも私の契術なら十文字さんの加護は…」
「私が組む。」
「あの…?」
「私が組む。」
「─わかりました。」
倭島のゴリ押しに、呰見は屈した。
「よし、組み合わせも決まったし食べ終わったら探索だ!李杏たちが北の方行くから豪ちゃん達は南の方ってことでいい?」
「OK、ごちそうさまでした!」
11時45分、誰も見つからない。
倭島は少し落胆していた。
「まぁバンバン見つかっても逆に消耗し過ぎちゃうからね。しょうがないよ。」
十文字がそれを見抜いて励ます。
「…お腹すいた。」
「OK!ラーメン奢ってやんよ。」
「十文字さん…好き!」
「私もだぜ!」
(─でも、十文字さんはみんなが大好きなんだよね。)
「あ、大将、味噌ラーメンと豚骨ラーメン大盛りで!」
「あいよ!」
麺を湯がきながら大将は元気良く返事をする。
開店間近だからか、客は二人以外誰もいなかった。
「倭島ちゃんは来たことある?ここのラーメン美味いんだよね〜。」
「いえ、初めてです…」
「しっかし豚骨大盛りとかよく食べるねぇ。健康的でいいと思うよ!」
「ありがとうございます…」
十文字は何でも褒めてくれるので、倭島にとっては居心地が良かった。
「へいお待ち!」
大将が二人分のラーメンを運んでくる。
「…来た!」
「よしじゃあいただ…」
ガタンッ!ズズズズズ…
突如落下音が聴こえたあと、ずり落ちるような音を3人は聴いた。
「な、なんでぃ!」
「…敵襲!?」
倭島がドアを開けると…目の前は砂の山だった。
「ど、どういうこと…?」
「多分…店ごと地面に埋まってる。」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!!ローンで買った店がぁぁぁぁぁ!!!」
十文字が腰を抜かす大将に触れる。
その瞬間、一瞬大将はビクッと痙攣した後、気を失った。
「大丈夫、ちょっと眠って貰っただけ─で、これどうしようか。」
「…相手の契術がわからない以上、慎重に行くべき。」
「店ごと沈んだのなら天井ぶっ壊せばいいんだよね。それなら簡単だけど…」
ポタ…ポタ…
二人は雫が落ちる音を聞く。
「…何かポタポタ聞こえる。」
倭島は天井が低くなっていることに気づいた。
いや、低くなっていると言うよりは壁に遠くなるほど垂れていっているという感じだ。
「やば─」
シャッ!
空かさず手から糸を出す。
それは蜘蛛の糸のように網目を形作り─膨らむ天井を押さえつけた。
「ありがとう、なるほど圧殺狙いだったのか。」
「物体をドロドロにする契術─でもそれなら店が落ちていったのが…」
「地面を液状化させたんじゃないかな?」
「でも天井はゆっくり溶けていったし、それならもっとゆっくり落ちると思う。」
「─二人いる?」
「それだ」
ズズッ…ズズ…
どんどん網が下に下がっていく。
「そろそろ、時間切れ…!」
「OK、すぐに放つよ!」
そう言って十文字は両手を上に向ける。
「せえぇぇぇぇぇぇい!」
両手から、青い雷が放たれる。
ズキューン!
天井も網も、一瞬でふっ飛ばされた。
青い空が見える。
倭島が糸を放ち穴の向こうに糸を貼った。
「掴まって。」
十文字が倭島に掴まり、倭島は大将を両手で抱えて地上に脱出した。
「嘘だろ!?な、なんて火力だ…」
若い男が驚嘆している。
「あらぁ?結構しぶといのねぇ。」
車椅子の女性は対象的に余裕そうである。
「こらー!一般人を巻き込むなんてどーゆーこと!」
「くっ…魔王から連絡もないし、狙った奴がこんなに強い奴だし、なんでこんな時まで俺はツイてないんだ…。せっかく借金踏み倒せると思ったのに…。」
「大丈夫よぉ、だって私の契術に弱点はないもの。」
自信に満ちた表情で女は言った。
「そうでした!さすが河邑さん!」
「─抵抗しないなら、早く楽になれるけど。」
「そのセリフはこっちの物よ。あなた達は私に勝てないわ。」
十文字は河邑を目掛けて電撃を放つ。
─が、電撃は左に逸れて空中に消えて行った。
「!?」
「どういうこと!?」
「行ったでしょぉ、私は無敵って。」
「なら…!」
さらに広範囲に電撃を放つが、今度は電撃は上に逸れた。
「駄目かっ…!」
「あら、そんなに残念そうにしちゃいけないわ。
ワンサイドゲームはまだ始まったばかりじゃない。」
残り32人
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