第2話

 クソッ、いつまで待たせるつもりだ。

 月神にしては遅い。いつも俺より先に起きて待っている月神が、今日に限って現れない。

 俺と月神は化物退治を生業としている。その切っ掛けは生まれ育った怪異研究所。実験していた怪異達の反乱によって、怪異研究所は潰された。そこで生き残っていた実験体の俺達は、研究所の上の組織に拾われた。

 興味の無い話をぐだぐだとされたのは覚えている。要するに、逃げ出した怪異を殺せ、と命令されたのだ。

 全く人間は馬鹿で反省もしないと思ったもんだ。研究所を壊した怪異を信用する考えがわからなかった。

 最初は生きる為に同意した。どうしても喰いたい奴がいたからだ。その手段を探すのにも丁度良かった。

 そして、今も月神と一緒にいる。


 先日殺したくびり鬼には相方がいた。人に取り憑いて首を括らせるしか能のない低級鬼に、3年もの間、見つからずに犯行を繰り返す事など出来るはずがない。外で待ち伏せていたらしいそいつの気配を月神が捕らえていた。

 そして、今日はその化け物を退治しようというわけだ。肝心の月神がいなければそいつに辿り着けない。

 扉が開く。俺の部屋に入って来た月神に向けて前蹴りを繰り出した。鳩尾に向けて放った蹴りを月神は防ぐ。

 なるほど。これは愉しい。嬉しいサプライズだ。俺は久し振りに機嫌が良くなった。

「挨拶はこの程度にして、夢魔のアジトに向かおう」

「そうだな。逃げ出さないうちに向かうとするか」

 俺は、月神とおぼしき奴の後に付いて部屋を出た。そいつの黒い長髪の三編みが歩くたびに左右に揺れる。今日はそれに腹が立つこともなかった。

「今日の怪異は美味そうだな」

 思わず俺は呟いた。今日の月神はそれに反応しない。これが夢なら覚めて欲しくは無い。そう、思った。

 

 

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