地獄巡り 月神の日常

あきかん

第1話

 夢を見ている。

 短髪の男、火車と一緒に旅をする夢だ。

 目的は一つ。それを成し遂げるまで火車は止まらないだろう。

 俺はただ火車の側にいられればそれで良かった。望み通り、火車の隣は俺の指定席となった。

 血の味を思い出す。俺が知っている味は、ただ一人。火車が流していた血の匂いに抗えずにそれを舐めたのが初めての吸血行為であった。

 吸血鬼の俺にとって、血は二つの意味を持つ。一つは、それ無くして生きる気力が湧いてこない。死ぬことも叶わぬこの身体にとって、吸血をしないという事は生きた屍になる事を意味していた。

 もう一つは、血の味に勝る生き甲斐はない。覚醒剤も注射された事があるが、あんな物は吸血の快感に比べれば無いも同然だった。

 あの生き地獄のような施設の日々で、火車の血だけが俺の生きる希望だった。他の血を飲もうとは考えられない。あの場所で無理やり血を飲まされては吐き続けた。火車以外の血など今更受けつけない。


「良い夢を見れているか」


 朧気な輪郭をした火車が話しかけてきた。あり得ない。それでも良い。たとえ偽者だろうが、火車が俺に語りかけてくれるのならば、それで。


「良い夢だよ」


 と、俺はそいつに答えた。火車の温もりは感じない。灼熱の業火のようなそれは、自らも焼き尽くさんと火車の内で燻り続けている。


「火車を殺したら戻ってくる。それまで夢の続きを見ていろよ」


 そいつは、何処かへ消えて行く。


「夢のお礼に1つ忠告しよう。俺に化けるのだけは止めておけ」


 今にも消えそうな輪郭に向けて俺は語りかけた。そいつに伝わったかはわからなかった。


 

 

 

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