カフェ フルール・ドゥ・スリズィエにようこそ

金森 怜香

第1話 市内の森


――ねぇ、知ってる?最近流行ってるウワサの事。



 ――聞いたことある!



――たった少しの期間しか開いてない、すごく珍しいカフェがあるんだって



 ――え、どこにあるの?



――それがねー。地図アプリが機能しなくなっちゃうんだって



 ――それじゃあどこかわかんないよね。



無名の女性作家である、如月 雪華きさらぎ せっかはたまたま、ウワサ話をしている女子校生たちの声が聞こえた。

「散歩がてら探してみようかな・・・?」


雪華は翌日、ふらりと散歩に出た。

いつもの道だけではなく、たまに曲がり角を一つ先に曲がってみたり、一つ後の曲がり角を曲がったりして、見える景色を変えてみる。

意外な発見がちょこちょこと出てきた。

一つ早く曲がると植物がいっぱいの家があったり、一つ遅く曲がるだけで公園があったり。


「ありゃ?ここどこだっけ?」

曲がり角をコロコロ変えて遊びすぎてしまったようだ。

うっかり道に迷ってしまった・・・。


仕方なく、雪華はスマホの地図アプリを起動させようかと悩んでいた時・・・。

「うん?・・・良い匂いがする。」

風に乗って、焼き菓子が焼きあがるような良い匂いがした。

「行ってみよう!それから地図を見て考えればいいや。」

抑えられぬ好奇心を胸に、雪華はその匂いにつられて歩いていく。


風に乗ってくる匂いを元に進むと、長年同市内に住んでいる雪華でも見たことがない場所に辿り着いた。

木がたくさん植えられ、とてもすがすがしい。

つい森林浴にでも来たかのように、両腕を上に伸ばして深呼吸する。

雪華は改めて周りを見る。

「森・・・?こんなところあったんだなぁ・・・。大きな木だ。」

「あら、お客さん?」

ほっそりとした女性が出てきた。

目測でおおよそ158センチくらい、やや小柄な方だろう。

雪華も同じくらいなので背の事は言えないが。


「えっと・・・、すみません。ここって・・・。」

「カフェよ。」

女性はニコッと笑った。

「ちょうど、マフィンが焼きあがったのよ。」

「わぁ!じゃあ、お邪魔して良いですか!?」

「どうぞ。さあ、こちらですよ。」

女性は雪華を席へ案内してくれた。

「素敵・・・!こじんまりとしてておしゃれですね。」

「そう?ありがとう。」

見たところ、客らしい客は雪華だけである。

雪華はコーヒーと焼き立てマフィンを頼んだ。


「お待ちどう様。」

「ありがとうございます。あ、これ写真撮っても良いですか?」

「ええ、どうぞ。」

女性はにこやかに言った。


コーヒーは、まるで春を思わせるような華やかで柔らかい風味がした。

マフィンも、チェリーのようなものが入っているのに気付いた。

「う~ん、美味しい!」

雪華は幸せそうにマフィンを頬張った。

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