第7話日常

彼は気まぐれに、天界に出向いた。

嫁がいるのもあるが、たまには友人に会いに行くのもいいか。と思ったからだ。

天界に出向き、トールに挨拶をする。

「お。叡智の魔王様のご到着か」

「その呼び方は勘弁してくれ」

彼は”様”付けされるのを嫌うのだ。

しかし、周りは一向にそれを辞めないのである種諦めている。

「ほっほ。コバヤシか」

「デウスさん・・・デウス様・・・はあ。まったくどう呼べばいいんだ」

「なんでもかまわんよ」

俺は魔界と天界を和解させてしまった。有名人だ。

自分で思うのもアレだが、有名人は大変・・・というか面倒くさい。

「ゲームではなく、こちらで勝負せねば始まるまい」

「殺しそうで怖いんだけど・・・」

心配するな。とトールは笑う。

「お前ごときに殺されるほど弱くはないぞ」

傲慢だな。とみんなが笑いながら話していると微笑ましい気持ちになる。

この為に魔王になったのだから、俺は幸せだ。

「では見せてもらおうかの」

真剣にデウスは言う。これは決闘だ。








コロッセウムにて、叡智の魔王とトールが向き合う。

「容赦無用、本気で戦ってもらいます!」

騒ぎを聞いて駆けつけてきたギャラリーが騒ぐ。

ノリ軽いけど、これ殺し合いだから、と呆れる。

トールは自分の背丈ほどもあるミョルニルを構え、叡智の魔王はオリジナル兵装の魔剣ヘブンズギルを構える。

体格と武器は圧倒的にトールが大きく、勝ちは薄いと誰もが思う。

だが、

「手加減はしない」

「ああ!」

叡智の魔王、コバヤシはまったく怯んでいなかった。

「始め!」

始まりの笛の根が鳴り響く。

豪快にトールはミョルニルを放り投げる。

ミョルニルは、粉砕するもの。という意味もあり、的は絶対に外れない。そして投げたあとは手元に戻る。

最強と言ってもいい神造兵器だ。

それゆえに、

「うおおおお!」

絶対に当たる、という性質上急所をヘブンズギルで受け止めることが出来れば致命傷は免れる。

こちらはショートソード程のリーチだが折れなければ十分だ。

飛んできたミョルニルを弾き返すと、「セット(接続)」と詠唱し、トールの背後に武器を召喚し武器を空間に3本ほど固定化する。

俺の一番得意な魔術、ウェポンサモナー(武器召喚)だ。

武器の構造を解明し、記憶することでその武器の性能を再現し魔力を武器に具現化する。

「武器、投射」

固定化した武器をトールに向けて放つ。

「ぐっ・・・!?」

視界の外からの一撃で背中にショートソードが突き刺さる。

さすがに雷神トールも怯んだのか、声を上げた。

「いまだ!」

このチャンスに仕掛けないと勝ち目はない。

しかしそれを狙っていたのか。

「甘い!」

身体を魔力で強化し全速で駆けて接近した時、間合いに入った瞬間。

ミョルニルを唐突にトールは薙ぎ払うように振った。

咄嗟に魔剣で防ぐが吹き飛んで壁に叩きつけられていた。

「ガ・・・ハッ」

さすがに効いた。

咄嗟に魔力で背中を強化したが、そうでなければ致命傷だ。

「〆じゃな」

ゼウスがコロッセウムの真ん中に丁度二人を遮るように降り立つ。

「トールの勝ちじゃ」

会場が最高に盛り上がっていた。

足を引きずるように歩いていると、トールが肩を貸す。

「言ったろう。お前では殺せない、とな」

「ああ。だが次は負けない」

二人は仲良くコロッセウムを後にした。

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