第9話 顔のむくみ

 いつしかコンサートの打ち合わせが増えていった。毎日時間を見つけては、オレンジピールと会社の人間とで、コンサートの話をしていた。今はコロナ禍で出来ないけれど、年明けには感染も収まっているだろうという事で、予定しているようだった。

 朝10時、出勤してきたオレンジピールのメンバーに、いつものようにメイクを施していると、

「瑠伽、お前顔がむくんでるぞ。夕べちゃんと寝たか?」

瑠伽の顔に異変を感じ、鏡越しに話しかけた。

「あちゃー、ごめんなさい。ちょっとゲームしてたら遅くなっちゃって。」

瑠伽は顔をくしゃっとして笑った。

「夕べ、何時まで仕事してたんだ?」

「うーん、部屋に帰ったら3時だったかな。」

「うへー、遅いな。それからゲームしたのか?何時に寝た?」

「明るくなってからだから・・・5時頃かな。」

「起きたのが?」

「9時。」

「4時間か。足りないな。」

「ですよね。ごめんなさい。」

「謝るな。自由時間くらい欲しいだろ。お前らは仕事し過ぎなんだよ。普通だったら適応障害とかになるぞ。」

俺は部屋の冷凍庫から化粧水を出してきた。

「まあ、若い時には多少の無理も利くけどな。いいか瑠伽、顔は俺が何とかしてやる。でも、体調を崩したら俺じゃなんとも出来ないから、疲れたと思ったらちゃんと寝ろよ。」

「うわ、この顔何とかしてくれるんですか?」

「任せろ。この冷凍化粧水をコットンに含ませて、顔に塗れば。」

瑠伽の顔に、冷たい化粧水を2枚のコットンで左右対称に軽くパッティングする。

「どうだ?」

「冷たくて気持ちいい!」

「ほら、だいぶ良い感じに引き締まっただろ。」

「本当だ。梨陽さんすごい!」

俺は得意になってメイクの続きをやってやった。瑠伽のメイクが済むと、真生がやってきた。

「ねえ、さっき何話してたの?なんか、すごい!とか何とか聞こえたけど?」

真生が瑠伽に問いただしている。

「梨陽さんかっこいいんだぜ。顔は俺が何とかしてやる!ってさ。」

瑠伽がはしょってそう言った。そこじゃないだろ、多分。

「え?どういう事?」

当然真生は分かっていない。

「つまり、顔がむくんだら梨陽さんに言えば、何とかしてくれるって事。」

「え、マジで?ありがてぇ!」

そうなのか?顔がむくむのが悩みなのか、二十歳の若者が。気の毒に。

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