第8話 慣れてきて

 歌番組の収録に出かけた。スペシャル番組だそうだが、他の出演者と顔を合わせないように、別のスタジオで収録だそうだ。

 いつの間にか、オレンジピールは全員俺を下の名前で呼ぶようになっていた。なんだかんだ、あいつらは全員人なつっこい。おじさんだと思ってなめているようだ。いや、甘えているのか、安心しているのか。

「花村くん、いいわねえ。みんなに慕われて。」

若宮さんが、嫉妬とも取れるような、すねた言い方をした。

「年の近い、男同士だからですよ。」

「あら、年は近くないでしょ。」

「え・・・まあ、そうですね。ははは。」

兄弟よりは離れている。俺は一体何のお守りをさせられているんだか。

 メイクを直す時、やっぱり櫛が危ない。俺はだんだん慣れてきて、

「こら、じっとしてろ!」

「動くな!」

と、タレントに怒鳴りつけるようになっていた。カメラに撮られていようが知ったこっちゃない。いつか目に櫛が刺さったとか、大事故が起きてからでは遅いのだ。

「梨陽さん、怖―い。」

カメラを意識してか、夢羅がぶりっこしてそう言った。と、思ったら、その夢羅の頭を柊人がペンっと叩いた。

「何だ、そのぶりっこは。」

「柊人―、痛いじゃんかー。」

夢羅は頭を押さえて柊人の方に向き直った。良かった。カメラはそっちの二人にフォーカスした。俺はどうせ顔にモザイクだからな。

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