第2章〜いざ、異世界へ!〜

 ――神魔暦一七七三年。


 広大なルクセリア大陸中央に存在する人族の王国、インウェディア王国。


 その北部に位置するアーレンス領の南東、そこにある【ラウルの森】その奥深くには、多種多様な魔物と呼ばれる生物が生息していた――


 そんな森の中で現在いま一人の少年が、多くの魔物に追われていた。


 「はぁ……はぁ……ッ!くっ、……ぜぇ………ぜぇ……ッ!」


 少年が必死に魔物から逃げている。


 としの頃は八歳から十歳といったところだろうか。髪と瞳の色は、この国では珍しい明るめのアッシュグレー。精緻せいちに整った相貌そうぼうは中性的。少年は簡素な軍服の上に外套マントを羽織っている。


 「何で……こんなことに……ッ!」


 少年は恐怖で動きが鈍くなる脚をひたすら動かし、必死に森の中を駆ける。


 「すまない……みんな、僕のせいで……ッ!」


 自責の念に駆られる心が思いを浮かべるのは、――少年の使用人達のことだ。


 執事、数人のメイド、そして護衛の兵士二人。


 少年は彼らと共に、ある用事でアーレンス領の南方に行った帰りだった。


 その道中に突然、一人の男が現れ、少年達に魔物を放ったのだった。


 「…………」


 現在いまからさかのぼること四年前、当時四歳だった少年、ユウ・アルン・アーレンスは両親を事故でなくし、アーレンス領の領主であるライゼン・ジルク・アーレンスの養子として生活することとなった。


 ユウの両親はある有名な貴族なのだが、子供がいたことを知るものはほとんどおらず、知っていたのは両親の親戚しんせきであるライゼンを含む領主一族だけだった。


 そのため、突然養子にむかえられたユウのことをこころよく思わない貴族は多く、魔力量も低かったユウは貴族たちから影でなどと呼ばれさげすまれてきた。


 使用人達はそんなユウにも普通に接し続けてくれていた。優しく接してくれていた。


 そんな彼らのことがユウは大好きだった。


 しかし、突如現れた男と魔物達に彼らは殺されてしまった――


 ――ふと、ユウは我に返り、脚を止める。


 そこは鬱蒼うっそうと木々のしげる森林の中に、ぽっかりと開けた空 間であった。


 前方では先回りしたのであろう魔物の群れがこちらに凶悪な牙を向いている。


 「……ここまで……か………」


 ユウは半ば呆然ぼうぜんとしながら、その場所に膝をつく。


 その瞬間――


 「キケケケケケケケケ――ッ!」


 耳障みみざわりな哄笑こうしょうとともに魔物の凶悪な爪がユウに向かって振り下ろされる。


 ――次の瞬間、ユウの脳内が激しくスパークし、大量の情報で埋め尽くされていく。

それと同時にユウの躰が白くまばゆい光に包まれていき、魔物の動きが止まる――…………。


 ……やがて、その光が収縮していき。


 完全に消えた……その時。


 「…………?」


 動きを止めていた魔物達の前には、先程までと何ら変わらぬ姿の獲物のみがあった。


 静寂。ただ吹き抜ける風の音と魔物達の発する奇声のみが支配する、騒然たる静寂。


 そんな変わらない現実を認識すると。


 「グルォオオオオオオオ――ッ!」


 魔物達は再びユウへと襲いかかる――――



 ―――――――。


 その時。


 「グギャアアアアアアアアア――ッ!?」


 再びユウに襲いかかろうとしていた魔物達の躰がバラバラになった。


 「ふぅ――うん?転生完了直後に随分ずいぶん歓迎かんげいだな?」





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