第1章 8話

 「………ん、っ」


 白い光がじんわりと視界ににじみ、遊の覚醒を促す。


 目を開けると、そこには随分と高い天井と――


 「あら、起きたの?


 遊の横たわるベッドの側に座り、紅茶を飲んでいる少女だ。


 「フィリア、その呼び方はやめてくれ………ここは?」

 「アレスの家にある客室よ。倒れた原因はアレスのカウンターを受けたことによるものだけれど、覚えてる?」


 ふぅ~、とフィリアが温かそうな紅茶を冷ましながら言う。


 ………確か、俺は紫電一閃を使ってアレスの分身体全員に一撃を入れたはずだ。しかし、最後にアレスの本体に攻撃を仕掛けたときに回避と同時にカウンターをもらってしまった。


 「――試験は……失格…か」

 「いいや、ちゃんと合格だ」


 俺たちの前に巨漢が姿をみせる。

 

 「師匠………合格って?」

 「そのままの意味よ。アレスの躰をよく見てみなさい」


 フィリアに言われ、俺はアレスの躰をじっくりと観察させてもらう。


 ふむ、―――何度見ても良いガタイだなぁ……ん?あれは――――


 「………もしかして、かすってたのか?」

 「ええ、ちゃんと秘剣は


 よく見るとアレスの頬が少し切れている。恐らくは、完全に回避されたと思っていた【紫電一閃】がかすっていたのだろう。


 「……はぁ。そうか、良かった。じゃあこれで……いけるんだな」

 「そうだ。今のお前ならばあちらの世界でも十分にやっていけるだろう」

 「そうね。闘神の十分の一くらいの強さの相手なら、ほとんど魔力を使わずに勝てるぐらいには成長したしね」

 「師匠はあれで実力の十分の一だったのかよ…………。まさに化け物だな」


 まさに闘神だな。


 ………いや、手加減をしてくれているというのは最初からわかってはいた。


 しかし、まさか実力の十分の一しか出していない相手に負けたとは…………。


 「それでもすごいことなのよ?かなりのハンデ戦だったとはいえ、天界で修行を始めてまだ半年の、それも前世でボッチだった人間が闘神に勝ったんだから」

 「あぁ、人間に負けたのは初めてだった」

 「いや、すごい事だっていうのは分かったけどさ……ボッチの部分、必要だった?」

 「え、前世も前前前世もボッチでしょう?」

 「いや、前前前世はちがくね!?」

 「え?」

 「え、……もしかしてボッチだったの?」

 「いいえ?キミに前前前世はありませんけど?」


 何なんだろう?この女神マジで何なんだろう?すごいムカつく。もう殴ってもいいんじゃないのか?というか殴りたい。

 

 それにしても、十分の一の力であんなバカみたいなパワーなのか………。


 本気の剣撃なら訓練場は跡形もなく吹き飛ばされるだろうな。


 あれ?そういえば………訓練場は大丈夫なのだろうか?


 「フィリア。訓練場は、―――?」


 そう。あそこの訓練場は俺とアレスの戦いで――主にアレスの攻撃でだが――かなり壊れてしまったはずだ。


 俺の問にフィリアとアレスの両方が頷いた。


 「大丈夫よ。アレスの家は全体に自動修復魔法がかけられているから」

 「心配しなくても、修復はもう完全に完了している」

 「あ、そうなの……………ならいいや」


 魔法ってやっぱり便利だな。そんなものまであるのか。


 「ところで、俺はいつ向こうに行くことになるんだ?」

 「そうね……。こっちの準備もあるし、ユウも疲れてるだろうし………明日でいいんじゃない?」

 「明日か…、なら今日はこのまま寝させてもらってもいいか?」

 「いいんじゃない?」

 「ああ、ゆっくり休め」

 「じゃあ、おやすみ」


 二人に告げ、まぶたを閉じる。

 

 ついに異世界転生か………。









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