第52話
「ん?何かな、あの人たち?」
幸雄が足を止めて、前方の男たち三人を見た。
三人はそれぞれ、剣や盾で武装していた。
幸雄はおそらくこの世界の冒険者たちだろうと思った。
幸雄が少し違和感を感じたのは、三人が、幸雄と麗子の二人を物色するように眺めていたからだった。
「ま、いいか。気にせず進もう」
幸雄はさっさとダンジョンを出ることにした。
冒険者はモンスターと戦うことを生業としている。
別にあの三人は自分の敵にはなり得ないだろう。
幸雄はそう考えた。
「へへへ…あの二人…見たところ弱そうだな…」
「食っちまうか…死体を隠せばばれねーだろ?」
「他の冒険者は周りにいない…今やっちまっても、目撃者はゼロだ…」
三人の冒険者たちは小声でそんな相談をする。
幸雄は知らない。
冒険者の中には、同業者である冒険者を殺し、装備や金品を奪ったりする輩が存在することを。
三人は幸雄と麗子が特に高級そうな装備を身につけていないのを見て、この場で簡単に殺して金目のものを奪える相手と判断した。
「しかも、見ろよ…女の方…」
「ああ…ありゃ相当な上物だ」
「男はすぐに殺そう…そして女は俺たちで楽しんだ後、奴隷商人に売り飛ばそう。ありゃかなりの高値になるぞ」
三人は互いに顔を見合わせてげびた笑みを浮かべた後、幸雄と麗子に近づいていった。
一方で、前方の三人が、すれ違うふうでもなく、道の前に立ち塞がったのを見て、幸雄は首を傾げる。
「ん?なんですか?」
キョトンとして尋ねる幸雄に、三人のうちの一人がいった。
「そこのお二人さん。突然だが、俺たちは今からお前を襲う」
「はぁ?いきなりなんです?」
幸雄が理解に苦しむと言った顔で三人を見る。
三人は下衆な笑みを浮かべながら、二人を取り囲んだ。
「お前ら冒険者になりたての駆け出しだろ。そんな貧弱な装備じゃ、追い剥ぎ似合うってギルドで教わらなかったか?」
「ちょっとした小遣い稼ぎさ。お前たちを殺して金目のものを奪う。女は奴隷商に売り飛ばす。俺たちの懐には一ヶ月は遊んで暮らせるだけのお金が転がり込んでくる。簡単だろ?」
「悪いが、俺たちもこんなちょろそうな餌を見逃すわけにはいかねーのさ。悪く思うなよ」
口々にそういった三人に、幸雄はようやく自分が襲われかけているらしいと言う状況を理解した。
「なるほど…つまりあなた方は僕達を襲って殺すと?」
「そう言うことだ」
「逃さねぇよ?」
「自分の運の悪さを呪って死んでいけ」
「あ、ちょっと待ってください。そのまえにひとついいですか?」
「「「あ?」」」
突然手を挙げた幸雄に、三人が動きを止める。
幸雄は、気の抜けた声であっけらかんと尋ねた。
「この中で1番強い人って誰です?」
「「「はぁ?」」」
三人は呆気に取られた。
今まさに危機的状況にある中で、命乞いをするでもなく、意味不明な質問をした幸雄を呆れたように見つめる。
「何言ってんだお前?」
「状況わかってんのか?」
「頭大丈夫かこいつ?」
「いいから答えてくださいよ。誰が1番強いんですか?それぐらい教えたっていいじゃないですか」
尚もそう食い下がる幸雄。
三人の中から、真ん中に立っていた男が幸雄に歩み寄った。
「1番強いのは俺だが?それがどうかしたか?」
「あ、そうですか。あなたですか」
「…?」
「あなたが三人の中では1番なんですね?」
「そうだが?それを知ってどうするんだ?」
「ふむふむ」
一人でに納得した幸雄は、何度か頷いた後、スキルの力を放った。
「じゃあ、残りの二人はいらないんで自害してください」
次の瞬間、後ろにいた二人が突然手に持っていた剣を自らの胸に突き刺した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます