第51話
「…(ドミネーター…他人だけでなくモンスターも操れるなんて…恐ろしいスキルね…何か弱点はないのかしら…)」
幸雄が、モンスターを操り、自害させたのを見て麗子は表情を保ちつつも内心驚愕する。
他の人間をたった一言で操れるだけでも強力なスキルなのに、さらにモンスターまで操ってしまう幸雄のスキル、ドミネーター。
これほど強力なら何かしら弱点もあるはずだと、麗子は考える。
「…(弱点…あるわよね…?もしなかったら…)」
もし幸雄が言うように、ドミネーターに弱点などなく、他人やモンスターを無制限に支配下に置けるスキルなのだとしたら、それは何者も幸雄に逆らえないことを意味する。
麗子が幸雄の元から逃れるのも絶望的だ。
「安心してね、黒崎さん。モンスターなんて僕の相手じゃないからね。君は僕が守るよ」
幸雄が黒崎ににっこりと笑いかける。
「…っ」
麗子は言葉を発することが出来なかった。
幸雄は客観的に見てどこか情緒が安定していないところがある。
少しでも機嫌を損ねると何を仕出かすかわからない。
現状幸雄は麗子に対して歪んだ恋愛感情を持っていて、今すぐに麗子が裕也や龍之介のように酷い目に遭わされる確率は低いが、けれど何かの拍子に機嫌を損ねて仕舞えば、その限りではない。
麗子は、幸雄の地雷を踏まないように、極力喋らずにいることが得策だと考えた。
「じゃ、行こうか」
再び幸雄が麗子の手を引いて歩き出す。
麗子は幸雄についていくしかなかった。
麗子と幸雄の二人がダンジョンの暗い通路を歩いている。
「ん?黒崎さん、大丈夫?」
「…」
麗子の足取りがふらついているのを見て、幸雄が首を傾げる。
「…(だめ…意識を失いそうだわ…)」
ここまで幸雄の機嫌を損ねないようにとなんとか歩いてついてきていた麗子だったが、体力はほとんど限界に近かった。
意識が朦朧とし、視界が定まらない。
もう少しも歩く余裕が残されていなかった。
「あ、そっか。黒崎さん、有馬くんのせいでご飯食べてなかったんだっけ」
幸雄が思い出したようにポンと手を叩いた。
「酷いよねぇ、有馬くん。可愛い黒崎さんにこんな意地悪するなんて」
「…」
「大丈夫?あと少しで出口だと思うんだけど、歩ける?」
「…」
「あ」
ペタリと麗子がその場にへたり込んだ。
ゆっくりと瞼が落ちてきて、意識を失う寸前だ。
「うーん、困ったなぁ。僕一人じゃ運べそうにないし…」
幸雄はポリポリと頭をかいてしばし逡巡するような仕草を見せたあと、不意に口を開いた。
「よし、じゃあ、こうしよう。黒崎さん、立って。立って歩いて」
「…っ!?」
突如、失われそうだった麗子の意識は無理やり覚醒へと向かわされ、麗子はふらふらの足で立ち上がらされた。
そして歩いていく幸雄に、ドミネーターの強制力で無理やりつき従わされる。
「うんうん。これなら問題ないよね。さすが僕のスキル。体力の限界とか関係ないね」
「あ…あっ…」
無理やり歩かされながら、麗子は悲鳴にならない声をあげる。
限界に近い体を無理やり酷使され、歩かされて、麗子は少しずつ自分の精神と体が壊れていくのを感じた。
幸雄は自分になんらかの好意を抱いているから、大丈夫。
そんな少し前までの自分の甘い考えが、完全に消し飛んだ瞬間だった。
「ふんふん〜」
幸雄は鼻歌を歌いながらダンジョンを歩く。
麗子がその後ろを倒れそうになりながらついていく。
「ん?なんだあいつら」
「冒険者か?」
「にしてはろくな装備じゃねーな」
そんな二人の前に、三人の武装した男たちが現れた。
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