第53話


「はぁ…?」


冒険者の男は一瞬、何が起きたのか分からずに呆気にとられた。


だが次の瞬間、事態の深刻さに気づき、瀕死の仲間二人に駆け寄った。


「な、何してんだよお前ら!?おい!!」


男は取り乱し、倒れた仲間二人の体をゆする。


だが、深々と剣を胸に突き立てた二人は息をしておらず、その瞳は虚だった。


じわっと流れた血液が、血溜まりを作る。


「て、てめぇがやったのか…?」


男がゆっくりと立ち上がった。


そして怒りのこもった瞳で幸雄を睨む。


そんな男に幸雄はあっけらかんと言った。


「自分達は僕を殺そうとしたくせに…逆に殺されたからって文句はないよね?」


「…っ!!このガキがぁああああ!!」


激昂した男が剣を抜き放ち、幸雄に突進する。


「止まれ」


幸雄は即座に、スキルを発動して男の動きを止めた。


「なっ!?体が…動かねぇ…?」


幸雄の命令で自らの体が固まって全く動かなくなったことに、男が驚愕する。


「無駄だよ。あんたは僕を殺せない。これは僕のスキル。名前はドミネーター。あんたは一生僕の言いなりの下僕になるんだ」


「す、スキル…だと…!てめぇ、まさか…日本人か…!」


男は幸雄の見た目、そしてどう見ても魔法とは思えない力から幸雄を異世界からきた日本人だと判断した。


「へぇ、僕らを知ってるんだ。だったら話が早いね。僕らは今からここを出る。道中モンスターに襲われると思うけど、いちいち僕が対応するのも面倒だからね。戦闘は任せたよ」


「ふ、ふざけんな…!誰がテメェの下僕なんかに…!」


「うるさい。口を閉じて黙って僕らたちを出口まで案内しろ」


「…っ」


男が目を見開いた。


何かを言おうとしても、なぜか口を開くことができなかった。


男は幸雄の命令通り、武器を構えて先導して歩き始めた。


「よし、行こうか」


幸雄は満足そうに頷いた後、無理やり歩かせている麗子と共にダンジョンの出口を目指して進み始めた。




冒険者ギルドで登録を済ませて、突っかかってきた身の程知らずのゲオルグを『わからせた』俺と新田は、素材換金所を目指して街中を歩いていた。


時刻は日暮れで、クエストを受けて路銀を稼ぐのは明日からだ。


今日は森で倒したヒュージ・グリズリーの素材を売って資金を得て、安宿にでも泊まって夜を明かすという計画だった。


「ヒュージ・グリズリー一頭分の素材か…だったら、これぐらいになるな」


「ありがとう」


素材の換金所はすぐに見つかった。


この辺りには、冒険者がギルドで買い取ってもらえなかった素材などを売るための換金所がたくさんあるのだ。


俺は一週間ほど衣食住には困らないだろう資金を得て、換金所を後にした。


それから半時間以内には、主に冒険者をターゲットとした安宿も見つけることができた。


とりあえず1日分の金を払った俺は、新田と共に藁の敷き詰められた狭い部屋に案内された。


「狭いが…これでいいか?新田」


「う、うん…!私は大丈夫だよ…!」


「ん…?なんか顔赤くないか?新田」


「ふぇ!?」


「具合でも悪いとか?」


「ううん!?全然大丈夫だよ…!?」


「そうか…ならいいが…」


「…こ、こんな狭い部屋で一ノ瀬くんと二人きりで寝ることになるなんて…」


「何か言ったか?」


「な、何もっ」


「…?」


新田が何かごしょごしょと言っていた気がしたが、声が小さすぎて聞き取れなかった。


「それじゃあ、今日は明日に備えて休むか」


「う、うん…そうだね…」


俺たちは狭い部屋の隅にそれぞれ寝転がった。






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