第31話



川の水で喉を潤した後、俺たちは夕食を取ることにした。


周囲の木々を魔法で切断し、森の中に寝転がれるほどのスペースを作った。


それから木々に魔法で火をつけて、道中狩っておいた小動物を炙る。


周囲はすっかり暗くなっており、パチパチという焚き火の音が暗闇に溶けて消えていく。


「美味しい…!なんかバーベキューしてるみたいだね…!」


意外にも野生動物の肉は新田に好評で、うさぎを丸々いっぴき一人で平らげていた。


女子なのでこういうのに抵抗があるのかとも思ったがそういうわけでもないらしい。


それか、右も左もわからない異世界で選り好みしてる場合じゃないという覚悟か。


「それじゃあ、一ノ瀬くん、先に寝ていいよ」


食べ終わった後は、睡眠をとることに。


俺が寝転がるために地面の石などを取り除いていると、新田がそんなことを言ってきた。


「先に…?新田は寝ないのか?」


「見張りが必要でしょ?一ノ瀬くんが先に寝ていいよ。時間が経ったら起こすから」


「ああ、そういうことか」


どうやらモンスターに寝首を掻かれることを心配しているらしい。


「安心しろ、新田。見張りの必要はない。クリエイト・ゴーレム」


俺は地面の土をすくって、ゴーレム錬成の魔法を使う。


『ウゴゴゴゴ!!!』


土からゴーレムが錬成され、咆哮する。


「ひぃ!?」


新田が悲鳴をあげて尻餅をつく。


俺は驚く新田を安心させるように言った。


「大丈夫だ。こいつは人間は襲わない。単なる護衛役だ」


ゴーレムは、殆どの魔法使いが錬成できる基本的な使い魔で、体長は約3メートルほど。


かなりのパワーと頑丈さを誇るこいつが数体もいれば、寝ている間の護衛は十分だろう。


「クリエイト・ゴーレム、クリエイト・ゴーレム」


俺は立て続けにゴーレム錬成の魔法を使って、ゴーレムを5体ほど錬成した。


そして寝ている間に周囲を警戒するよう命令する。


「す、すごいね…魔法ってこんなこともできちゃうんだ…」


新田が目を丸くする。


「これでひとまずは安心だ。朝までぐっすり眠ろう」


「う、うん…」


新田とともに横になる。


俺はすぐに眠気がやってきたが、新田は周囲を取り囲むゴーレムが気になっているのか、落ち着かない様子。


まぁ、ここまで歩いてきた疲労もあるだろうし、そのうち寝付くだろう。


俺は新田を放っておいて、瞼を閉じた。




翌朝。


鳥の囀りが聞こえ始め、俺は瞼を開いた。


朝日が登り、あたりはすっかり明るくなっていた。


「寝ている間を襲っては来なかったか…」


俺はがっかりしてため息を吐いた。


実は俺は昨晩から寝ておらず、ずっと瞼を閉じた状態で周囲を警戒していた。


もしかしたらカテリーナが、寝込みを襲いにきてくれると期待したからだ。


もしカテリーナが俺が寝ていると勘違いしてノコノコ転移で現れてくれたら、今度こそ即座に無力化し、捕縛してやろうと思ったのだ。


もう前回のようなミスは犯さない、現れたらすぐさま四肢を切断して身動きを封じ、確実に俺と新田を元の世界に送還させる。


そう思って気を張っていたのだが、結局カテリーナは現れなかった。


「まぁ、そこまで馬鹿じゃない、ということか」


俺はため息を吐いて、まだ少し残っていた火を消した。


それから隣で安らかな顔で寝ている新田を起しにかかる。


「おい、新田。朝だぞ」


「んみゅ…」


何やら可愛らしい声が新田の口から漏れた。


何と勘違いしたのか、俺の手をぎゅっと掴み、すりすりと頬擦りをしてくる。


どうやら新田は朝が弱いらしい。


「…」


…ちょっと可愛いと思ってしまった俺は、もう少しの間、新田を寝かせてやることにした。

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