第45話 神崎沙綾、リトライする
昴のキスが付け鼻に降ってきて、沙綾は胸がムズッとした。
嬉しいとか嫌だとか恥ずかしいとかじゃなくて……、残念。
そう、昴の顔が近づいてきた時、位置的に期待してしまったのだ。今までだったら絶対に有り得ない感情だ。それに気付いて沙綾の頬がサッと赤らむ。
「赤い鼻も可愛いけど、照れてる沙綾も可愛いね。この衣装どうしたの?」
「……梨花姉ちゃんに浅野さんとおうちでクリスマスパーティーするって言ったら、友達とか恋人とするクリスマスパーティーは仮装しなきゃいけないんだって聞いて用意しました」
沙綾は梨花にからかわれていたのだが、友人宅のクリスマスパーティー未経験の沙綾はすんなり信じていた。
昴の衣装は、部屋着にもなる手触りの良いものを選んだが、沙綾のはド○キで格安に仕入れた為、まるでレオタードのように身体にピッタリしていて恥ずかしかった。貧相な体型をさらしてごめんなさい……くらい思っていた。
「ウッヴン、そうなんだね。俺も今までクリスマスパーティーなんかしたことなかったから知らなかったよ。じゃあ、来年は俺がトナカイやるから、沙綾はミニスカサンタよろしく」
仮装パーティーはクリスマスの常識ではないと知っている昴は、若干棒読み口調だったけれど、素直な沙綾は昴の言葉に同意するように頷いた。
「そ、そうですね。さすがにこんなにピチピチだとお笑い芸人みたいで恥ずかしいから、私も来年はサンタがいいと思いました」
「じゃあ、今年は沙綾が用意してくれたから、来年は俺が用意するよ」
来年、ビスチェにミニスカートのサンタコスプレをさせられることを沙綾は知らない。
「あの……、自分で用意しておいてなんですけど、恥ずかしいので着替えてきます」
「いいけど、ならその前に写真撮らせて」
「いいですけど……」
昴は、沙綾が言い終わる前にスマホをかまえて、沙綾の姿を全方位から撮りまくった。さすがにローアングルから撮られた時は恥ずかしく、なんとなく胸と股関を手で隠してしまう。
「あ、それ、逆にいい」
逆ってなんですか?
イケメンは変態チックな行為をしていてもイケメンであるって、気が付かされましたよ。
さすがに昴が連写機能をフル活用した時はひいたが、そんなに喜んでもらえたのなら、恥ずかしい思いをした甲斐があったと、沙綾はやりきった充実感を覚えた。
どんだけ撮るんだというくらい昴のメモリーカードがトナカイ沙綾でいっぱいになった頃、「料理が冷めてしまう」という沙綾の一言で、沙綾撮影会は終了した。最後に一枚沙綾も昴のサンタコスを撮らせてもらい、さっきの黒ワンピ可愛かったという昴の要望から、沙綾は黒いニットワンピとサンタ帽に着替えてきた。
「そういえば、今日、結菜さんが谷田部さんと二人でクリスマスなんだってメールきました」
料理を取り分けながら、沙綾は初めてきた親戚以外の同性からのメールを思い出して昴に報告した。
「寺井と連絡とってるの? 」
「今日初めて連絡きました。でも、なんて返したらいいのかわからなくて」
お気をつけて……とだけは返信したが、正解がわからずに悶々としているんだと告げた。
「いや、ある意味正解。谷田部、社内社外関係なく見境ないから」
沙綾がジトリと昴に視線を向けると、昴は沙綾の言いたいことをくんだのか、昴は「俺は社内社外関係なく、沙綾限定で見境なくなるけどね」と付け加えた。
「結菜さん達はどんな格好してるんでしょうね。やっぱりサンタでしょうか? 」
「仕事帰りならスーツじゃないの?」
結菜くらい綺麗でスタイルよければ、あんな笑い狙いみたいな全身タイツも、きっと色っぽく着こなせることだろうなと想像する。あれはSサイズだから昴は着れないがもし昴が着たとしたら……、妄想の中の昴はきっちりしっかり全身タイツを着こなしていた。はい、イケメンはどんな格好をしてもイケちゃってますね。
食事もほぼ食べ終わり、ケーキに蝋燭をたてて電気を消した。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス。一緒に蝋燭吹き消そう。せーの」
フーッと尖る昴の唇を見て、沙綾はこの前の失態を思い出してしまった。
真っ暗になった中赤面する。
「電気つけてくるね」
昴が立ち上がった雰囲気がし、しばらくして電気がつく。
「あの、これ、メリークリスマスです」
昴がテーブルに戻ってきた時、沙綾はテーブルの下に隠していたクリスマスプレゼントを取り出した。
「ありがとう、開けていい? ……キーケースだ! 大切にするよ。これは俺から、メリークリスマス」
可愛くラッピングされた細長い箱を渡され、開けてみるとシルバーの小さな花のついたネックレスだった。
「……可愛い」
「俺がつけたい。いい? 」
沙綾が頷くと、昴は沙綾の真横に移動してきた。沙綾が昴に背中を向けるようにすると、髪の毛を束ねられ持ってるように言われる。束ね損ねた髪の毛を避けるように首筋を撫でられ、ゾクッとする。昴の手が前に回ってきて、ネックレスの冷たさに沙綾は肩を揺らした。
「……はい、可愛い。石のついたの贈りたかったんだけど、金額が上限超えちゃうから無理だった」
「私はこれがいいです。ありが……」
振り向いた沙綾は、思ったよりも昴が近くにいて顔を赤らめる。そして、真っ赤な顔のままエイヤッと目をギュッと閉じた。昴がフッと笑う雰囲気がし、鼻の頭にキスが降ってきた。
「さっきはトナカイの鼻に邪魔されたからね」
沙綾は胸の前で握っていた手を解くと、眼鏡を外してテーブルに置き、膝立ちになり昴の肩に手を置いた。
今度は狙いを外さない!
勢いが付きすぎて失敗した前回の反省点を踏まえて、ゆっくり昴に顔を寄せる。場所も外さないように両目をしっかり開いて……。
ムニッとした感触がして、沙綾のミッションはコンプリートした。
沙綾も目を見開いていたままだったが、昴も目を見開いたままで、0距離で視線が絡み合う。
「目……つぶらないものですか? 」
喋る為にほんの僅か離れると、昴の息が唇に当たった。
「つぶるなんてもったいない。五感で全部記憶しておきたいから」
今度は昴から唇を寄せてきて唇同士が触れる。そのまま何度も触れて離れてとキスが繰り返される。最後に唇を食まれるようなキスをされ、リップ音をさせて昴は離れた。そして沙綾の肩に顔を埋めるようにしてハグしてきた。
「ヤバイ……滅茶苦茶幸せ」
それは、沙綾の方だった。
こんなに優しいキスは初めてで、嫌な記憶が全部上書きされて、もっとして欲しいと思ってしまう。
沙綾も昴の背中に手を回してギュッとすると、昴の顔が肩から離れた。
「……顔、真っ赤ですね」
「沙綾も。ってか、その顔反則」
「エッ? 変な顔になってます?!」
昴に頬を撫でられ、もしやニヤついているのかと、沙綾は頬の筋肉を引き締める。
「色っぽ過ぎ。目が潤んで、ほっぺた赤くて、唇がしっとりしてて……、何度でもキスしたくなる。他の男の前で絶対にそんな顔しないで」
「しませんよ? まず、視線合わせられませんし。……ケーキ、切ってこないとです」
「あぁ、うん。そうだよね。でも……もう一回」
もう一回と言いつつ、昴は何度もキスをしては「可愛くて辛い」とつぶやいていた。
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