第27話 神崎沙綾はおうちに招待することにしました
【昴】今日は7時には仕事終わる予定です。夕飯一緒に食べれないかな?
【昴】明日から出張だし、週末も会えないし、今日会っておきたいな
【昴】夕飯だけでいいんだけど
【昴】沙綾ちゃんを補充すれば、明日からの出張も頑張れるんだけどな
沙綾は、仕事帰りに夕飯の買い出しをしてからアパートに帰ってきた。
鶏肉が安売りだったから買いすぎてしまった。あと大根も。明日も食べれるように、今日は大根と鶏肉の煮物を多めに作ろうと思う。今日食べ終わった後に、揚げ出し豆腐と蒟蒻を入れて再度煮込めば、ちょっと味変になり、明日には味が染み込んで美味しい筈だ。
買ってきた食材を冷蔵庫にしまい終わった時、付け合せは何にしようかと、買った物で作れるご飯って何だろうとクック●ッドで検索しようとしたら、ラインにメールが入っているのに気がついた。
昴からの数件のメール。
以前みたいにお風呂に入った後ではないけれど、さすがにこの時間からまた会社付近に戻るのはかなり嫌だ。
別に一週間二週間会わなくても問題ないだろうに……と思わなくもないが、ルームシェアの話とかも相談したかったことを思い出す。沙綾よりは遥かに経験豊富で出来る男の昴なら、ルームシェアの利点欠点を的確にレクチャーしてくれるんじゃないかなと考えた。
そこで、家から出るのは嫌だという理由だけで、昴を自分のアパートに誘うことにした。昴の家でも二人きりで過ごしているんだし、すでにアパートの外観は知られているのたから、だいたいどんな部屋かは想像できるだろうから問題ないだろう。
来るのが嫌だと言うならそれはそれで良いかとラインを送ると、昴から食い気味に来ると返信があった。
一口コンロしかない為、味噌汁を先に作り、煮物にゆっくり火を通す。昴が食べるのなら、最初から具材を多く入れようと、大きめの鍋で煮込みながら、煮込んでいる間に作る付け合せは冷奴にした。トッピングはザーサイを千切りにし、白髪ネギとゴマ油、ラー油をアクセントにピリ辛にあえて豆腐にかけることにする。
トッピングを作り終えた時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい」
ドアを開けると、花束を持ったイケメンが立っていた。思わず閉めようとしたドアにお高そうな革靴が差し込まれる。
「ちょっと沙綾ちゃん、何で閉めるの?! 」
「あ、ごめんなさい。ちょっと眩しすぎて……」
「いやいや、よくわからないからね。これ、お土産」
「ご丁寧にすみません」
これは恋人同士の会話で合っているのかと首を傾げる昴から花束と紙袋を受け取った沙綾は、「狭くてすみません」と言いながら部屋に昴を入れた。
「キッチンで手を洗ってください」
玄関脇のキッチンに昴を通し、沙綾はケーキの箱を冷蔵庫に入れてから花束を何にいけようかと思案する。自分に花を買う習慣もないし、花束を貰うことすら初めてだから、家には花瓶なんかはない。かといってバケツじゃ花束が可哀想過ぎる。
悩んだ末、丈の高いガラスのコップを花瓶に下ろすことにした。
うん、綺麗。
花の匂いを吸い込んで、思わず頬が緩む。そんな顔を昴に見られてるなんて思わない沙綾は、煮物を器によそったり豆腐を器にうつしたりと忙しい。
「器運ぶよ」
「ありがとう……お花もありがとう」
「どういたしまして」
ザ・家庭料理というような夕飯が食卓に並び、二人で「いただきます」と食べ始めた。
昴は冷奴のトッピングがいたくお気に召したようで、「次も作って」とリクエストしてきたし、煮物も数回おかわりして明日の分がなくなったくらいだった。
「うわぁ、満腹、ヤバいくらい食べたし。美味かったァッ、マジ幸せ」
「お粗末様でした」
沙綾は床にゴロンと横になった昴をよけるように後片付けをし、食後に紅茶と昴が持ってきてくれたケーキを出す。沙綾のはショートケーキで、昴のはチーズケーキだった。
「チーズケーキ、好きになりました?」
「一人では食べようとは思わないけど、沙綾ちゃんと二人で食べるのは好きだよ」
甘い物は別腹の沙綾と、いや一緒でしょという昴。すでに満腹を超えて食べていた昴は一口でリタイヤするも、沙綾が残りを引き受けた。
「浅野さんって……ルームシェアとかシェアハウスとかどう思います? 」
沙綾はショートケーキを完食し、昴の残したチーズケーキを堪能しながら聞いてみた。
「ルームシェア? 相手が信頼できる相手なら、良い家に家賃折半で住めるからいいよね。しかも共用部分とはいえ、ルームシェアするような物件ならバス・トイレ別だろうし、キッチンだって広いよね」
「そう……ですよね」
梨花が持ってきた話、確かにすこぶる条件が良いのだ。立地も会社の近くみたいだし、2LDKでバス・トイレ別。キッチンは三つ口コンロで対面式のペニンシュラキッチンらしい。昴のマンションの間取りと似ているが、似た良うな場所柄だと作りも似るのかもしれない。
しかも、家主であるルームシェアを希望する人物は、仕事が忙しくて平日はほぼ顔を合わせないだろうということだし、共用部分の掃除さえすれば、今の家賃の半額、しかも光熱費込みでその値段で良いらしい。
問題は、人見知り……通り越して対人恐怖症気味な沙綾に他人との生活が出来るかどうかだ。
「沙綾ちゃんはルームシェアを考えているの? 」
「……梨花姉ちゃんから話もらって。このアパート更新時期だから」
「あぁ、神崎さんからの話なら心配ないだろうね。彼女、沙綾ちゃんラブが半端ないもんな。きっと沙綾ちゃんと相性の合わない相手は選ばないだろ」
「そう……なんですよね。だから、きっと相手の方は良い方だと思うんですけど……」
「沙綾ちゃんが慣れるか心配? 」
沙綾はコックリと頷いた。
「ならさ、良いこと嫌なこと書面にすると良いよ。小さいことにも取り決めを決めるんだ。口約束じゃなくてきちんと書面でね。例えば、冷蔵庫の中の私物には名前を書くこと……なんてくだらないと思っても、小さな苛々がたまると一緒に住むのもストレスになるから。相手だって、ある程度条件出してくれた方が線引きしやすいんじゃないかな」
昴の話を聞いて、もしそれが可能ならばルームシェアも良いかもしれないと思えた。顔を突き合わせてアレコレ話し合うのは苦手だが、書面のやり取りなら沙綾でも出来る気がしたからだ。
「浅野さんはルームシェアの経験があるんですか? 」
「……ルームシェアというか、まぁ、似たような経験はあるね」
いつもニコヤカな昴の表情が幾分か翳った気がした。昴ほどのイケメンならば今までに星の数ほど彼女もいただろうし、同棲した彼女もいたことだろう。過去の女性のことを思い出して昴の感情が揺れたとしたら、いまだに昴に爪痕を残す女性がいるということだろうか? そう思うと沙綾の胃の辺りがズキンと傷んだ気がした。
食べすぎかな? (100%違います)
沙綾は自分がヤキモチをやいたということに気づいていなかった。
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