バーター選手(4)

キーンコーンカーンコーン

「部活だあああ!」

チャイムと同時にスタートダッシュを決めた野球部がそう叫びながら出ていく。それを尻目に見ながら、大生たいせいは自分の支度を始めた。後ろのロッカーにおいてある部活用のエナメルバックを手に取り中身を確認する。

 スパイク、ソックス、レガース、体操着、タオル……よし、全部あるな。

今更やっても意味の無い確認作業を終え、いざ部室へ行こうとした時

「あ、待って、大生!」

教室内で箒をかけていた女子生徒が話しかけてきた。

「なに?」

「もう少しで掃除終わるから部活一緒に行こ。部室のカギも私が持ってるし」

「それだったらカギだけちょうだいよ、他のやつ待たせんのも悪いし……っていねぇし」

俺の意見は無視ですか……まぁ、いつものことなんだけどさ。

そんなことを思いながら大生は掃除用具を片す彼女に目を向ける。

 沓掛陽奈くつかけはるな、サッカー部マネージャーで大生と駿介しゅんすけの幼なじみ。若干くせっ毛な茶髪のセミロングに美少女とまではいかないものの整った顔立ち。表向きは明るく素直で誰にでも優しいやつだが、2人の前では本来の性格が顕著になる。よく言えば芯が強い、悪く言えば我が強い性格だが、協調性は備えながらも陽奈以上にアクの強い大生、駿介と付き合っていくにはそのくらいでなくては無理だろう。

そうこうしているうちに用具を片し終わった陽奈が荷物を持ってきた。

「おまたせ、早く行こ。駿介くん待ってるだろうから」

「早くって、お前待ちだろ」

そう言って、大生は前を歩く陽奈の後に続いて行った。

「そういえば今日昼休みに青田くんと話してたよね。何話してたの?」

階段を下る陽奈がそう尋ねる。

「見る目のない馬鹿たちを笑い返してやろうって話」

「え?」

目を点にする陽奈。当然だろう。いきなり『見る目のない馬鹿たちを笑い返してやろう』なんて言われたらそんな反応するに決まってる。

それを分かっていた大生は昼休みに青田と話したことを要約して陽奈に話した。

「へぇ〜なるほど、青田くんは大生のことかなり評価してるんだね。それで『見る目のない馬鹿たちを笑い返してやろう』か〜、大生はなんて答えたの?」

靴を履き替えながら聞く陽奈。その問いを聞いて、ほんの数時間前の出来事を大生は想起した。そして少しだけ影のある笑みを浮かべながら答えた。

「『面白そうだね』とだけ」

「……ふふふっ」

突然黙ったかと思えば、口元を押さえながら笑い出す陽奈。その様子を怪訝に思う。

「どうした?」

「いや、やっぱり大生は大生だなぁって思ってさ」

「いや意味わかんねぇよ」

「いいのいいの! さっ、はやく部室行こ!」

「は? おいちょっとまってて!」

釈然としない大生だったが、陽奈の勢いに負けそれ以上追求する諦め彼女の後に続いて部室を目指した。

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