バーター選手(3)

「僕とホットラインを組もう」


「……は?」


 先程声をかけられたときよりも大きな驚きが大生たいせいを殴った。 


 ホットライン? 何を言ってるんだ? こいつは?


「え? なに、僕の話聞いてなかったの?」


「すまん、ちょっとボーッとしてた」


「そっか、じゃあもう一回説明するよ」


 そう言って一つ咳払いをしてから青田は話を再開する。


「紅白戦でボールを持ったら僕はまず渡貫わたぬきのことを見る。渡貫は僕がボールを持ったら前に走る。簡単でしょ?」


「いや簡単だけどなんでそんなことするんだよ?」


 話についていけない大生が思わず尋ねる。大生が青田のプレーについてよく知らないように青田も大生のプレーについて知らないはずなのだ。しかし、その答えはすぐに分かった。


「なんでって、お互いの特徴を活かすために決まってるでしょ」


「お互いのって……青田は俺のプレースタイルを知ってるのか?」


「知ってるよ。だって君の中学の市大会の決勝を見たから」


「あの試合を?」


 大生が得点を挙げた試合だ。駿介しゅんすけからのスルーパスを受けニア天井をぶち抜いた試合。あの試合も結局ただ駿介の評価が上がっただけに終わった。ドリブル突破にアシスト、試合には負けたが評価の面では正直言ってあいつの一人勝ちだ。 

少し遠い目をする大生に構うことなく青田は続ける。


「あの試合、前川が積極的に仕掛けられたのはなぜだと思う? それは君が積極的に裏を狙ってバックラインを下げたからだよ。それで相手が間延びしてスペースが生まれたんだ。最後の得点もそう。あれは前川のパスに君が走り込んだゴールじゃない。君が前川からパスを引き出して決めたゴールだ」


 まくし立てるように話す青田に大生は唖然とする。今までこんなふうに評価されたことなどほとんどなかった。どんなプレーも駿介が絡むと全てあいつにかっさらわれる。『駿介のおまけ』が定位置の大生は付き合いの浅い人から褒められたのは久しぶりだった。ただ、疑問は増えるばかりなのだが。


「……結局青田は何が言いたいんだ?」


 喜びと動揺が入り乱れ、変な間が空く。しかし、青田が大生のことを高く評価していることしか今のところわかっていない。『ホットラインを組む』と青田は言うが、そんなこと一朝一夕でできることじゃない。野球のバッテリーなどとは違うのだ。

パスを送る、それを受け取る。

言葉にすると簡単そうに響くが、そうはいかないのがサッカーだ。特にスルーパスの出し手と受け手の関係性になると尚更、両者の思惑、呼吸が少しでも合わなければ決定機には結びつかない。

青田は大生の疑問に口角を上げて答える。


「ようは、見る目のない馬鹿たちを笑い返してやろうってことだよ」


そういう彼の表情は悪戯をいたずらを考える子供のようだった。


 

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