バーター選手(2)

「……なんだ、青田あおたか。びっくりさせないでくれ」


「わるいわるい。それで、渡貫わたぬきはいったい何に騙されたんだい?」


 欠片も思っていなそうな謝罪を並べ、青田と呼ばれた青年は話を続けようとする。

 青田敏之あおたとしゆき大生たいせいと同じサッカー部員だ。

 身長は大生より少し大きいくらい。おそらく174cmくらいだろう。物腰の柔らかそうな目、整ったパーツ、茶色がかった髪。どことなく女子ウケの良さそうな見た目だ。プレーに関してはよく知らない。後期入試で入学した彼は大生と同様にボールに触らせてもらえずランニングとボール磨きをひたすらこなしていた。本人曰くポジションはボランチだったらしい。


「別に、なんでもない」


「へえ、なんでもないねぇ」


怪訝そうな目を向けてくる青田。入学までの経緯いきさつを彼に話していない大生からするとただの好奇心も不粋なものに感じてならない。もちろん青田にはそんな気など一切ないのだろうけど。


「そういえば、なにか用事でもあったのか?」


 やや苦しいが、なんでもいいから話を逸したい大生。幸いにも大生の思うほど青田は下衆なやつではなかった。「あぁ、そうそう。忘れてた」と屈託のない笑顔を向ける。


「今日、新監督が来るじゃん?」


「らしいな」


 昨日副顧問が言っていた。


「たぶん紅白戦をやると思うんだよ。ほら、戦力確認のために」


「まぁ、可能性は十分あるな」


「それでさ、僕も君もどうせBチームでしょ。フォワードにもボランチにも推薦組がいるから」


 俺も一応推薦組なんだけどな。


 そう思うが口には出さない。何故かって? ただ単に惨めだからだ。 

青田の言葉に耳を傾けつつ、窓の外を眺める。見えているのに決して手の届かない空は自分のポジションと被って見えた。

良くない。最近何を見ても、置かれている立場に繋げてしまう。


そうやってボーッとしていたからだろう。大生は青田の言葉に少し反応が遅れた。


「だからさ、僕とホットラインを組もう」


「……は?」

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