バーター選手
バーター選手(1)
「騙されたぁ……」
零れ落ちた
市大会決勝で値千金の同点ゴールを決めたもののチームはPK戦で敗戦。彼らの夏は終わった。
あのゴールで
『
という結果に落ち着いてしまった。
そのはず、駿介は県内でも名の知れた選手だったのだ。敵を一瞬で抜き去るドリブル、正確無比なパス、左足から放たれる強烈なシュート……ボールを運べて、チャンスメイクもできて、点も取れる。こんなフォワードが注目されないはずがない。市大会での成績は4試合で3ゴール3アシスト。結果も十二分にある。実際に他県の強豪校からもスカウトがあったらしい。駿介自身が迷惑そうにこぼしていた。
一方、大生は4試合で5ゴール。ストライカーとしてこちらも十分な活躍をした。ただ、内3ゴールは駿介のアシスト、残り2ゴールは駿介のシュートのこぼれ球を詰めた、俗に言うところの“ごっつぁんゴール”
『前川あっての渡貫』
結局いつも通りの評価に落ち着いてしまった。当然、推薦など来るはずもない。そう思っていたのだが……1校だけきたのだ。
群馬県立
過去に3度の全国高校サッカー選手権優勝を果たしている強豪校だ。しかし最後に選手権に出場したのももう20年近く前の話であり、現在ではよくある“古豪”の地位に収まっていた。その古豪の復活に向けて高校が動き出し、まず手始めに“点が取れるフォワードが欲しい”とのこと。幸い、偏差値もそこそこ高い高校でもあったため一も二もなくその話に飛びついた。
ようやく自分も認められた。
大生がそう思ったのもつかの間だった。
進学してみれば驚きの連続だった。まず驚いたのは何故か駿介も同じ高校に進学していること。正直この時点で嫌な予感はした。
次にサッカー部に先輩がつい先日一気に退部したこと。どうにも顧問との確執が去年からあったようで一人が辞めてから芋づる式に退部していった。その顧問もよほどショックだったのかノイローゼになってしまい休職。サッカー部はなにもない焼け野原状態、文字通り0からのスタートになる。新監督は前顧問の知り合いで県トレセンのコーチ経験もある
そして極めつけに……大生は戦力として数えられていなかった。頭数を揃えたかっただけなのだろう。少なくとも前顧問ではそうだった。
この瞬間、大生はすべてを悟った。
自分は駿介のおまけに過ぎなかったのだ。よくて駿介を釣る餌か。
古豪復活にかけていると聞いてきたのに突然先輩は集団で辞めるし、監督も交代。
『君が必要だ』と言われて来たのに他の推薦組と違ってボールすら触らせてもらえない。
「ほんっと、詐欺だよな……」
「一体何が詐欺なんだい?」
「わっ!」
突然の声に驚き顔をあげるとそこには見覚えのあるサッカー部員がたっていた。
後書き(補足)
群馬県では公立高校からの部活動推薦があります。それについて説明するとなると、群馬県の入試制度から説明しなくてはならないので省略させていただきますが、とにかく推薦はあります。
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