#20 追撃
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カーミルとエフィは、逃走用のランドクルーザーを隠した砂漠の廃墟をめざし、馬を駆る。だが、ほどなく武装集団に追いつかれてしまう。容赦なく銃撃が浴びせられ、ふたりは絶体絶命の窮地に!
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10分ほど走ると、行く手の左側の大地が緩やかに隆起し始めた。
「そろそろ馬を交換しよう」カーミルは手綱を引いてゆっくりと馬を止めた。大人の人間を2人乗せて疾駆してきた馬は、見るからに疲弊し切っていた。エフィにつづいて下馬したカーミルは、2頭をつないでいた手綱をほどき、役割を終えた馬の首筋をぽんぽんと叩いてねぎらった。
2人がもう一方の馬に乗り換えると、遠く背後に土煙をあげながら近づいてくる数台の車の影が現れた。
「ついに来たか」カーミルが馬の脇腹を蹴り、左手で手綱を引く。すると馬は左に進路を変えて斜面を登り、高台の上に出た。
「この高台の先に廃墟がある。下のほうが地面が平らで走りやすいが、車ではここまで上がってこれない」
エフィを少しでも安心させようと、カーミルは説明した。ふたたび馬の脇腹を強く蹴り、手綱をしごく。馬は一気にスピードを上げた。
だが、ほどなくして4台のランドクルーザーが追いつき、崖下を並走し始めた。窓が開き、覆面をかぶった顔と銃身が現れる。
「撃ってくるわ!」エフィはあらんかぎりの声で叫んだ。
カーミルは手綱を強く引いた。馬が首をのけぞらすようにして、その足を止める。カーミルは背負っていた銃を素早く両手で持つと、安全装置を解除した。そして、急停車しようとしている崖下の車輛めがけて乱射した。何発かが車体に命中した。止まりかけた4台の車はふたたび動き出し、銃弾を避けるように散り散りになって旋回した。
すかさず、カーミルは強く馬の脇腹を蹴り、「ハイヤーッ」と大きな声を上げる。命令を受けた馬はトップスピードで駆け始めた。敵の車は旋回を終えて体勢を立て直し、ようやく追撃を再開するところだった。カーミルは馬の脇腹を何度も蹴り、必死に手綱をしごいた。
エフィはカーミルの体にしがみつきながら、うしろを振り返った。スピードに乗った4つの黒い塊が猛然と迫ってくる。やがてさっきと同じように崖下で並走を始め、覆面の男たちが銃を構えるのがわかった。
タタタタタッ。連射音がしたと思うと、馬の足下、斜面の上部あたりに連続して土埃が上がった。そのうち1発が、風にたなびくカーミルのガットゥラを切り裂いた。「きゃっ」エフィは叫び、頭をのけぞらした。
「エフィ!」カーミルが肩越しに振り返る。
「わたしは大丈夫!」エフィは声を上げた。
カーミルは右手を手綱から離し、片手で機関銃を構え、乱れ撃ちで反撃した。崖下を並走する車輛はスピードを落とし、あるいは進行方向の右側にふくれ、銃弾を避けようとした。
だが弾薬がつきた。弾倉を交換している余裕はない。カーミルは躊躇することなく機関銃を放り捨てた。「エフィ、きみの銃をくれ!」
エフィは太ももで締め上げるように馬の胴体をはさんで体を固定すると、カーミルからおそるおそる両腕を離し、背中の機関銃を手にした。「撃ち方を教えて!」
「撃てるのか?」
「やってみる。あなたは走ることに集中して!」
「わかった。銃身のまんなかあたりに突起がある。それを上から左側に叩け。あとは引き金を引くだけだ!」
エフィは言われたとおり、突起物を叩きつけた。ガチャという音を立てて、突起物が倒れた。エフィは左腕をカーミルの体にまわし、右手だけで構えようとした。だめだ、わたしには重すぎる。エフィは意を決し、より力を込めて太ももで馬の体をはさむと、左手をゆっくりと銃身にあてがった。絶対に生き延びみてせる。カーミルを守ってみせる。
体が上下に揺れるなか、エフィは車のほうに銃を構え、引き金を引いた。連射音が鳴り響いたと同時に、反動でエフィは体のバランスを崩した。
「カーミル!」
エフィの体が左後方へ倒れ、いまにも落ちそうだった。カーミルがすぐに左腕を思い切り伸ばし、エフィの手首をつかんだ。と、バランスを崩した馬が左に大きくよろめく。それが幸いし、カーミルめがけて飛んできた銃弾が右肩ぎりぎりのところをかすめていった。
「がんばれ、エフィ!」カーミルは渾身の力を込めてエフィを引っぱった。エフィもカーミルの手首をつかむと、馬の体にかろうじて引っかかっている右太ももにありったけの力を集中させた。2人の投じたエネルギーはやがてひとつとなり、落ちかけていたエフィの体が馬上に戻った。
「大丈夫か」
「ええ」エフィが大きく肩で息をしながらうなずく。と、前方に何やら建物らしきものが見えてきた。「あれじゃない!」
「ああ、あれだ」カーミルが力強く答えた。「銃をよこせ!」
エフィはカーミルに銃を渡し、その体にしがみついた。カーミルは片手で手綱を握り、弾を一気に使い果たさないよう、散発的に撃ちながら馬を駆った。
あと少し、あと少しよ。エフィは祈った。恐る恐る敵のほうに視線を向ける。と、車の窓から上体を乗り出し、屋根にひじをついてしっかりを狙いをつけている男の姿が見えた。「あいつを狙って!」
「この振動では狙いたくても狙えない!」カーミルは叫んだ。この姿勢では乱射するのが精いっぱいだ。もはやここまでか……。
そのとき、車上の男の頭が弾かれるように後方へ流れ、体ごと車から落下した。
「廃墟に援軍がいるのか?」カーミルの胸に希望が膨れ上がった。「しっかりつかまれ、エフィ!」機関銃を投げ捨てると、カーミルは「ハイヤーッ!」と声を張り上げた。
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